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たそのつぶやき

たそ動画にてピカブイはじめました^^

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ドルオタ続き、新エピソードです。

8話「デブ氏、年貢を納める」

なろうカスタム序盤が一応完成しました。

プロローグ
1話「拉致られたデブ」
2話「虹色のデブ、就職す」
3話「宣告」
4話「職業:盟約の担い手」
5話「発覚! 黒のぽんこつ賢者」
6話「まさかの仕打ち」
7話「立ち上がるデブ」

プロローグは字数を減らして少し調整したくらいです。1話以降は大幅に変わっているので、興味があってどちゃくそ暇なら確認してみてください^^

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インターネッツの端の端で、今日も一人の男が淡々とゲームをしている。
そんな場所があってもいいじゃない。だってようつべだもの。

マリオ&ルイージRPG最終回身内向け版
こちら

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「と、言ってみたはいいものの、どうしたもんかね……」

 俺は周りを見渡しつつ、ひとりごちた。
 やる気が出たのはいいものの、俺が異世界の中で一人取り残されたという事実に全く変わりはない。ハードモードは継続中である。

(まずは仕事……いや、宿確保が先か?)

 拠点、寝る場所がないのは怖い。しかし仕事がないまま宿に泊まるという状態もなかなかに気持ちが悪い。
 今持っている金でどれだけ生活できるのかも分からないし、まずは情報収集が先だろうか。

(となると、酒場かギルド的なところだな)

 我ながら安直な思考だとは思うが仕方ない。まずはファンタジー世界の王道の概念を頼ってみることにする。何にもアタリをつけないでさまようよりかは全然マシなはずだ。

 完全にそれでなくとも、それっぽいところがあるだけでもいいんだけど……ととりあえず周りに目を配ってみる。

「うーん……」

 しかしどうもこの広場の辺りは市場のようになっているらしく、周囲には食べ物や果物のようなものを売っている露店しか見当たらない。となると、少し奥まったところに行かないとダメかもしれない。

 ただ太陽の広場とはよく言ったもので、俺の周りにはこの広場を中心に何本もの道が放射状に伸びている。考えなしにその全てを行ったり来たりしていると、日が暮れてしまうかもしれない。
 どれか道に入るにしても、誰かに聞き込みくらいはした方がよさそうだが……。

「うう……」

 と、そんなことは探し始めた瞬間に理解していたのだが、とうの足が全く動こうとしない。
 だって、どういう文化があるかも分かってないのに、不用意に話しかけられないスよ。どんな地雷があるか分からんじゃない……。 

 でもそんなことを言っていたら仕事を得るなんて夢のまた夢だ。やらなきゃ死ぬんだからやるしかない。
 俺は決心し、そこらを歩いている通行人に話しかけようと歩み寄った。

「あ、あのぉ……すいません」
「はい?」

 人の良さそうな恰幅のいい中年女性。我ながらいい人選である。
 こちらに顔を向けたおばさんの表情は悪くなかった。少なくとも嫌がったりめんどくさがったりしているような表情ではない。これならいけるか……?
 俺はそうして少し緊張しつつも、何とか口を開いた。 

「僕今日初めてここに来たんですけども、ここら辺に仕事を紹介している場所とかってありますかね?」

 そう聞くと、彼女は少し怪訝そうな顔を俺に向けた。

「あなた、どこかの騎士さんとか?」
「え?」

 騎士? なぜに? この太鼓っぱら野郎のどこをどう見たらそういうふうに見えるん?
 思わぬ返答に疑問が尽きないが、とりあえず俺はおばさんに違いますよと答えた。
 すると彼女は、また少し物珍しそうな顔で俺を見た。

「あらそうなの。騎士さん達って大体髪を黒に染めてるでしょう? だからあたしゃてっきり」
「あ、あ~なるほど。そういうことでしたか。まあそっち系のやつ? みたいな感じではあるかもしれなくはないですね」

 案の定と言うべきか、急に知らない情報が出て来て困惑する。しどろもどろになりながらも返したが、怪し過ぎる。我ながらアドリブがきかない。
 しかし運のいいことに、おばさんはそれをいい感じに誤解してくれた。

「ああ、もしかして冒険者さん? それならそうと早く言ってよもう~」
「あ、そうですそうです! いや~紛らわしくて申し訳ない! アッハッハ!」

 何とか受け答えしつつ、俺は思考を巡らせる。
 黒髪だと騎士ってのは一体どういう理屈だ。自分に関することだし、早めに知っておきたいな。どこでボロを出すか分からんし。

 さり気なく探りを入れてみるか、と俺は再びおばさんに聞いた。

「一応お聞きするんですけど、こっちでも騎士さんとか冒険者は黒髪なんですか? 実は僕少し遠くの方から来たので、この辺りの世情に疎くて」
 
 するとおばさんは、それにあっさりと答えてくれた。

「あらそうなのね。でもその辺りはこっちでも変わらないと思うわよ。冒険者の人はそうでもないけど、騎士さん達は大体黒く染めてるわねえ」
「あ~やっぱりそうなんですねえ」

 なるほど、少し分かった。黒髪の人が軍人や冒険者になることが多いって訳じゃなくて、あくまで染めてるってことなのね。
 まあ天然の黒髪の人がいないってことで女王様が俺を召喚した訳だから、そこは当たり前っちゃ当たり前か。

 でもなぜに染める必要があるんだ。軍人に多いってことは戦いに関係してるってことなのだろうか。どうにかその辺りの話も聞いておきたい。

「ちなみにですけど、その染める理由とかも変わらないんですかね」

 試しにそう聞いてみると、おばさんはまたしても親切に教えてくれた。

「あたしも詳しい訳じゃないから分からないけど、それも変わらないんじゃないかしら。扱えるマナとか魔法って髪色に出ちゃうじゃない? それを隠すために軍人さんは黒く染めてるってことらしいからねえ」
「ああ、じゃあやっぱり変わらないんですね。わざわざ教えていただいてありがとうございます」
「いいのよぉこのくらい」

 おばさんはそう言うと、朗らかに笑った。
 この世界の人達は結構いい人が多いのかもしれない。第一街人にして結構重要な情報を聞くことができた。

 おばさんの話からすると、俺みたいな黒髪のやつは染めてる人がいるせいでそんなに珍しくもないらしい。これは結構いい情報だ。だってこのまま俺が髪色を偽装したりしなくても、特に怪しまれることはないってことだからね。 

 しかしなるほど、扱えるマナは髪色に出ちゃうのか。そりゃあ確かに隠さないとまずいよなあ。戦う相手に自分の属性知られてたら対策取られちゃうかもだし。

(そう言えば城の謁見の間で少し見えた騎士っぽい人達は皆フルヘルムだったな。あれももしかしたら髪色を見せないようにするためのやつなのかもな)

 ファンタジー世界ならではの事情というやつだろう。いきなり外に放逐されてマジで不安だったけど、こういうことがだんだんと分かっていくのは、RPG感があってちょっと面白い。

 ともあれ、そう楽しんでばかりもいられない。無職のままでは天命が尽きる前に野垂れ死ぬ可能性だってある訳で。
 まずはお仕事……とちょっと前の俺ならあり得ない考えを抱きつつ、俺はおばさんにまた聞いた。

「それで、僕みたいな人間に合った仕事斡旋所みたいなのってありますかねえ」
「それならこの道の先にある冒険者ギルドに行くのがいいんじゃないかしら。ちょうどこの時間ならそんなに混んでないでしょうし」

 冒険者ギルド! やっぱりあるのか!

「この道ですか? どれぐらいで着きますかね」
「そんなに遠くないわよ。ちょうど市場が途切れたくらいのところにあったかしらね」
「おおそうですか! 早速行ってみます!」

 ありがとうございました! と少し大げさに腰を折ると、おばさんはいいのよーと笑いながら俺を送り出してくれた。
 第一街人があのおばさんで本当によかった。これでもし邪険に扱われてたら、せっかくちょっと回復した心がぽっきりと折れてたかもしれん。

 早速俺は歩き出し、おばさんの言った道へと向かい始めた。
 マジでどうなることかと思ったが、意外とことはスムーズに運んでいる。着実に一歩づつ進めば、もしかしたらこのハードモードもどうにか打開できるかもしれない。

「よーしよし! 幸先いいぞ~!」

 鬱屈とした気持ちがなりを潜めたせいか、俺の足は軽やかに前へと進んでいく。
 市場は活気にあふれていた。この辺りはどうも食べ物を売っている屋台が多いらしく、そこかしこからいい匂いが漂って来る。

 肉のような香ばしい匂いもあれば、何かの果物が放つ甘い匂いも合間に香って来る。日本の祭りの中を歩いているみたいで、少し懐かしい気分になった。

(うーん。ちょっと何か買ってみようかなあ……)

 と、そこでデブ特有の買い食い癖が顔を出しそうになったが、俺はふるふると頭を振り、その雑念を追い払った。

 金はある。しかしまだその価値が全く分かっていない。そんな状態でいきなり店に行けば、アホな俺はほぼ間違いなくボラれる自信がある。金を得られる手段がない今、そうした無駄が発生するようなことは避けるべきだ。

(ぐう……ここは我慢だ。我慢だぞタツキぃ!)

 そんなデブに堪える食い物ロードは、しかし幸いなことに俺が耐えきれなくなる前に何とか終わりを告げた。十分程歩くと、おばさんが言った通りに連なっていた屋台が途切れ、視界が一気に開ける。

 実は結構な大通りだったらしい。これは探すのに骨が折れるか……? と少し思ったが、そこで周りを見渡してみると、それは案外割と簡単に見つかった。

 周りに石やレンガ造りの家が多い中、その建物だけが周りから浮いていた。
 木造ながら、しっかりと漆喰のようなものも塗られた大建築だった。周囲に比べると明らかに建物の規模が違う。日本の一般的な4LDK住宅の4倍から5倍はゆうにある。

 上を見れば、他の建物にはない何かマークの付いた看板もぶら下がっていた。おそらくここで間違いない。
 その扉の前に立つと、自然と体が震えてしまった。

「まさかこの俺が、こいつの前に立つ日が来るとはな……」 

 親から言われてもなんだかんだとお茶を濁し、行くことを避けていた。行ったら負けとさえ思っていた、忌避すべき場所。
 そんな場所に、世界が変わっても来る羽目になってしまった。これはもう本当に年貢の納め時というやつなのだろう。運命と思って諦めるほかない。

「ごくり……」

 覚悟を決め、俺は扉のドアノブを握る。
 そうして俺は内心ドキドキしながらハローワーク、もとい、冒険者ギルドの中へと足を踏み入れた。









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「やばい……やばいやばいやばい!」

 マジでどうすんだこれ! 俺この世界のこと全然何も分かってないんだが! まず何をするべきなのか全く見当がつかん!!

「何か、何かないのか!?」

 半ばパニック状態になりながら自分の体をまさぐったが、当たり前のように何もない。
 マントとシャツにはそもそも収納スペースがない。ズボンにはポケットがあったが、そこにも何も入っていなかった。
 血の気がサーッと引いていく音が耳の奥で響いた。

「! いや待て! リュックは!?」

 着替えた時にあまり中身を確認せずにスウェットを入れてしまったが、実は探せば何か入ってたんじゃないだろうか。
 早速リュックを下ろし、スウェットを引っ張り出して中をごそごそとやってみる。すると……。

「あ!」

 底の方を見渡してみると、そこに小さな内ポケットがあることに気づく。
 逸る気持ちを抑えつつ中をあらためてみると、指に何かコツンと当たるものがあった。

「おおおお!?」

 そうだよな! さすがに何もないわけないよな! 全く女王様ってば人が悪い! 何かあるなら一言言ってくれればいいのに!
 そんな不敬なことを思いつつ、そのポケットにあるものをさらってみる。何やら紐のようなものと硬い感触、それから布っぽいものと紙のようなカサカサとしたものがあった。

「な、何だろ……。役に立つものあるかしら……」

 それらを拾い上げ、石畳の上に広げてみる。
 何やお前露天でも開くんかという目で周りから覗き込まれたが、中身が気になり過ぎて構っていられない。
 
「ん……これは!?」

 まず目についたのは、巾着袋のような何かの革っぽい袋だ。手のひらに乗るくらいのサイズだが、持ってみると少し重い。加えて、中から何か金属っぽい音がする。
 これはひょっとして、と紐を緩めてみると、案の定だった。中には硬貨と思われるものが数枚入っていた。

「あ、あぶねえ……さすがに一文無しじゃどうにもならんところだった」

 実際どんなもんなのかと中身を拾い上げようとしたが、寸前で思い留まる。
 こんな往来で金をみせびらかしたりしたら、何があるか分からん。ここは日本じゃないのだ。見たところ無法者のような格好のものは見当たらないが、用心しておくことに越したことはない。 

(つっても、他に大したものはないっぽいけどな……。この紐が通った金属の羽みたいなのはただのネックレスみたいだし。あと気になるのは、この手紙っぽいやつだけか)

 何の変哲もない白い封筒だったが、結構上質なもののようにも見えた。この世界にも普通に紙はあるらしい。

 裏返すと、幾何学模様っぽい刻印のなされた赤い蝋で封が施されていた。
 女王様からの手紙だろうか。そう思って開封してみると、やはり手紙と思われる便箋が一枚入っていた。
 早速綺麗に折り畳まれたそれをいそいそと開いてみる。しかし……。

「……読めねえ」

 完全に失念していた。俺は今異世界にいるのだ。こちらの文字で手紙なんか書かれても分かるわけがない。こんなテトリスみたいな文字、言語学者でもなきゃ解読できないよ女王様……。

 と、そうしてぽりぽりと頭をかいた時、ふいに手紙に異変が起きた。

「えっ?」

 日の光で少し分かりにくいが、文字が淡く光っていた。書かれた文字、筆跡に沿って光を放っている。

「あれ……?」

 そして少しすると、さらに不思議な事が起こった。書かれている文字にそれ以上の変化はないのに、なぜか頭の中でそれを理解することができるようになったのだ。
 喉を突かれてから喋れるようになったのと同様に、これもマナがどうこうして読めるようになったのだろうか。

 疑問に思いながらも、俺はとりあえずそれに目を通し始めた。今はとにかく、内容の方が気になる。

『タツキへ
 
 まずは改めて謝罪させて欲しい。やむを得なかったとは言え、こんな形で別れることになってしまって本当に申し訳ないと思っている。
 ただ、これまで私が君にしたことは、一応君のためを思ってやったことだ。それだけは信じて欲しい。

 こんな言い訳じみた謝罪の言葉では納得いかないかもしれない。しかし今は、まずは君がしっかりとこの世界で生きていけるように、地盤を作ることに注力して欲しい。それが叶った後なら、私は君からのどんな罵倒も受ける覚悟でいる。だから君のためにも、どうか今は耐えて欲しい。

 さて、本来ならこうした謝罪で紙面を埋めたいところなのだが、すまない。伝えなくてはならないことがあるので、勝手ながらここで打ち切らせてもらう。

 何をするにしても、これを知らなければ落ち着いてことにあたれないだろう。
 君の天命が、実際にはあと何日あるのかについてを教えておかなければならない』

「えっ」

 そんなこと分かるの? 確かにそれは聞いておきたい。ていうか聞いておかないと、これからの動きを決めにくい。これからこの世界で生きていく上で、これはほぼほぼ必須な情報だ。

「…………」

 しかし俺は、その先の文になかなか目を向けられないでいた。
 彼女のこの書き方が気になった。これじゃあまるで……。
 瞑目し、深呼吸を一つ。そうしてようやく、俺はその先へと目を向けた。

『紙面も限られているので、率直に書こうと思う。君の天命は、あと33日で尽きる』

「さっ!?」

 え!? は!?
 唐突に出て来た衝撃的な数字に、俺は目を疑った。
 俺は手紙を手のひらを使ってしっかりと伸ばし、もう一度該当箇所を確認した。

『君の天命は、あと33日で尽きる』

「はあああああああああああああああ!?」

 せっかくの女王様からの手紙がくしゃくしゃになってしまう。わずかに冷静な部分のある頭がそう思ったが、しかし俺はわなわなとそれを握りしめてしまった。

「さ、33日!? 嘘だろ!? たったそれだけ!?」

 1ヶ月ちょっとで何者かになれってか!? そんなん向こうの世界でだって無理だ! 

 現実的な数字を突きつけられたせいか、足元がおぼつかない。余命宣告されたがん患者とかってこんな感じなんだろうか。視界もふわふわし出した。
 「あと何日か」という書き方の時点で警戒はしていたが、まさかこれ程までに短いとは……。

 目にちかちかしたものまで見え始めたが、手紙はまだ終わっていない。震える手をバチンと叩き、続きに目を通す。まだ何か希望があるかもしれない。

『荷物に併せて入れておいたペンがある。それを使えば、君の方でもその日にちを確認できる。
 紙とそのペンを持ち、自分が盟約の担い手としていられるのはあと何日か、と念じるのだ。そうすればペンが勝手に動き、その日にちを教えてくれる。試しに封筒の余白にでもやってみるといい』

「ペン……?」

 そんなものあっただろうかと広げたものを見渡す。それらしいものと言えば、あとはこの金属の羽のネックレスみたいなやつしかないけど……。
 手のひらに乗せ、しげしげとそれを見つめてみる。すると、

「あ」

 よく見ると、羽の軸部分がペン先のように尖っていた。もしかしたらこれのことなんだろうか。
 早速封筒とそれを持ち、念じてみた。

「……おっ」

 するとどうだろう。腕が勝手に動き、封筒に何かを書き始めた。
 先から淡い光を漏らしつつ、ペンが氷上のフィギュア選手のようにすらすらと紙の上を滑っていく。
 またテトリスみたいな文字で書かれていくが、さっきと一緒でちゃんと読める。

 ロボットが書いたかのような事務的な文章ではあったが、そこにはこう書かれていた。

『タツキ・オリベ 盟約の担い手としての残り時間 30日』
 
「へっ?」

 ゴシゴシと目をこすって再度見てみたが、やっぱりそこにある数字は変わらなかった。
 
「おい……」

 さらに減ってるんですけど!

 女王様が言った通り、彼女達と話して知識を得たせいだろうか。 
 しかしそれだけで3日も縮まるのはおかしくないか? それだけ俺がしょぼい扱いということなのかもしれないが、ちょっと判定が厳し過ぎやしないだろうか。

 俺はへなへなと地面に膝を落とし、封筒と羽ペンを投げ出し、そこに両手をついた。

(アカン。これはアカン。マジで無理ゲーにも程がある)

 何と言うことか。大の男がちょっと泣きそうである。

 マジでどうすんだこれ……。俺は最近やってたコンビニバイトですら、客として利用してからの顔なじみで採用してもらった感じなのに……。
 この世界では俺のことを知っている人なんていないし、そんな縁故採用もあり得ない。

 何か突出した知識でもあれば別だが、俺は文系人間だからそういう実際的な専門知識はほとんどない。よって現代知識無双とかはほぼ無理だ。
 て言うかそもそも向こうでも落ちこぼれだったってのに、こっち来てそんな急に成り上がれる訳ないですし! そんなんできるんだったら向こうであんな生活してないよ!

「はぁ……」

 こんなことならもういっそのこと、好きに生きて好きに死ぬ生活の方がいいんじゃないだろうか。幸いお金はあるし、このファンタジー世界を楽しく見て回るくらいのことはできるんじゃないだろうか。女王様も瘴気のこととかは気にしなくていいって言ってくれてるし……。

 と、そんなことが頭をよぎり始めた時、ふとそばにあった手紙に目が行く。
 ぼーっとして思考力が落ちた俺は、それを何となく手に取り、ホコリを払ってまた読み始めた。

『盟約にふさわしい者となるには、あまりに短い。おそらく君はそう思っただろう。私も最初そう思った。しかし君と直に話してみて、その考えは変わった。
 自慢じゃないが、私は人を見る目はあると思っている。少し話しただけだが、君のことはある程度理解したつもりだ。

 君はとても誠実で頭がいい。そして何より、君には夢がある。夢を語る君の瞳には、光が溢れていた。あれは未来を切り開く力のある男の目だ。
 私はあの光を信じようと思う。例えこの身が裂けようとも、例え意識が瘴気の海に沈もうとも、ただひたすらに、頑なに、最期まで君を信じようと思う。

 こんな形になってしまい、君は私のことを信じられないかもしれない。それでも構わない。私はそれだけのことをした。
 しかし、君を信じている人間がいるということだけは、どうか忘れないで欲しい。

 君は決して一人じゃない。私はいつでも君を想っている。
 
 
                                      ソフィー   』

「…………」

 それを読み終えると、俺はそのまま地面にあぐらをかきつつ天を仰いだ。

「誠実で頭がいい、ねえ」
 
 確かに俺はどちらかと言えば誠実な方だと思う。しかしそれは、本当の誠実さとは違う。俺のこれは、お人好しと紙一重のまがい物だ。

 頭も別によくはない。たぶんあの浴場での話に対する理解力が少し高かったことを言っているのだろうが、あれは自分の命がかかっている話だったから集中していただけ。普段はどちらかと言うとアホ寄りだ。

 全くもって買いかぶり。そう思いつつも、しかし俺の心にはどこか温かいものが残っていた。

 何となく読み始めた感じだったのに、最後には彼女の弁舌に引き込まれてしまっていた。
 力強い言葉の羅列は、俺を励ますためだろう。そして締めの何の冠もない愛称の名前は、親しみのある呼び名で終わることによって、俺に少しでも寄り添ってくれようとしたのだろうと思う。

「優しい子、だよな……」

 口だけならなんとでも言える。普通ならそう思うところだろうが、不思議とこの手紙からはそういった悪い印象のようなものは受けない。彼女が本当にそう思っているのだということが、何となく伝わってくる。

 俺は自分に自信もないし、彼女が思っているような人でもない。
 でも、こうして誰かに信じられているということだけでも、自分が少しだけ上等な人間になれたようで、何だか救われたような気分になる。

「…………やるか」

 背中に誰かを感じていられるということが、こんなにも人を安らかにするなんて、知らなかった。

 気づくと俺は、広げたものを片づけてリュックを背負い、目の前の異世界然とした世界を、真っ直ぐに見つめていた。









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そうしてしばらくの間二人と談笑しているうちに、竜車がどこかへと到着する。
 道がきっちり整備されているのか、あまり揺れは感じなかった。ただかなり下っていくような道のりだったため、客車の後ろ側に座っていた俺は足をふんばっている場面が多くてちょっと疲れた。

 やれやれどっこいと腰をあげようとすると、

「あ、君はそのままここに残って」

 マール君に呼び止められる。なぜに? と眉上げだけで応じると、マール君は言った。

「さすがにそのままの格好だと目立っちゃうから、ここで着替えていって。座席の下に君に合いそうなものを見繕ってもらって用意してあるから」
「おおそうですか。それはありがとうございます」

 確かに目立ち過ぎるのはよくない。目立つとろくなことがないのは、齢25にもなる俺ならとうに理解している。ここはお言葉に甘えることにしよう。
 座席の布をめくり、その下の板のでっぱりを持ち上げると、布にくるまれた荷物が入っていた。結構な大荷物だ。

 二人が外に出たのを見計らい、早速俺は着替えを開始する。
 開いて見た限りでは、向こうの衣服とそう大差なかった。何とか一人で着ることはできそうだ。

 これは長袖のTシャツみたいなもので、これがズボン。んでこれが、ちょっと短めのマントみたいなやつ。羽織る感じで着ればいいのだろうか。あとこれは何だろう。リュックサック? 何これ。俺荷物持ちでもすんの? まあせっかくだし、一応脱いだスウェットはここに入れとくか……。

「あのー、一応着替えれました」

 少しもたつきはしたが、何とか形にはなった。
 外に向かって声を掛けると、はぁいとマールくんの声がして客車のドアが開く。

「ほお、なかなか様になっているではないか」

 客車から少し気恥ずかしい感じで降り立ってくる俺に、いつの間にやらフードを目深に被った女王様がそう声を掛けてくれた。女王様も街仕様ということだろうか。

 鏡がないから実際のところは分からないが、たぶん俺のこれは、いわゆる『旅人の服』というやつだ。最初の村で買えるちょっとだけいい装備、みたいな。
 しかしこの妙にでかいリュックサックはマジで何なんだろうか。これ背負ってるとマジで俺ト○ネコみたいになってるだろうからちょっと嫌なんだが……。

「タツキ」

 と、自分の格好を訝しげに見回していると、女王様から本名の方で呼ばれる。
 また密談だろうか。ちょいちょいと手招きされたのでそばに寄ると、彼女はおもむろにすっと自分の前を指差した。

「見るがよい。我が城と、我が国民達の脈動を」

 そう言われ、俺はそこに初めて目を向けた。

「ほわぁ……」 

 誰もが一度は思い描いたことがあるはずの“幻想”が、目の前に広がっていた。

 木造や石造りの家が大通りに沿って整然と立ち並び、かと思えば、簡素ながらも色鮮やかな衣服に身を包んだ人間達が、活気を振りまきながら雑然と道を闊歩している。腕や顔が体毛で覆われた獣人と思われる人も、普通にそこらを歩いていた。

 人が居て、家がある。構成要素は同じものなのに、そこに漂う空気感が全く違う。ここが日本ではないということを、改めて強く意識させられた。

(どっかの何とか村なんかじゃあこうはいかんよなあ)

 そして何より、遠景に鎮座するそれが美しかった。

 その圧倒的物量によるダイナミックさと、全体に施されたガウディ建築を思わせる緻密な意匠には、賞賛を通り越して呆れにも似た感情が湧いてくる。
 一体どれだけの時間をかければ、こんな代物が出来上がるのか。想像すらも容易ではなく、ただあんぐりと口を開ける他ない。
 天を衝く摩天楼。巨大な三叉槍のような城が、快晴の青をバックに威容を誇っていた。

「やはり綺麗じゃな、この国は」

 三つ編みをわずかに揺らしながら、そう思わんかと彼女が俺を見る。
 よほど自分の国が自慢なのか、ちょっと誇らしげに綻んだその笑顔は可愛らしさに満ちていて、思わず俺は目を見張ってしまう。

「そう、ですね。そう思います」

 景色も綺麗ですけど、あなたも綺麗ですよ……なんてことは言えるはずもなく、少し歯切れの悪い言葉を返してしまう。
 しかし彼女は俺のそれに全く気づかない。その景色に見惚れるように目を細めていたかと思うと、彼女はそのまま少し表情を険しくした。

「私はな、この光景を守りたいんだよ。タツキ」

 周囲を気にしてか、一段低くなった声で彼女は言った。

「美しい街に、人々が思い思いに動き、生活している。市井の人間からすれば何ということはない景色なのかもしれん。だが私は、この景色が大好きでな」
「分かるような気がします。いろんな人達が仲良さそうにしてていいですよね」
 
 そう言うと、彼女が満足そうにうむと頷く。

「しかし瘴気の広がりを野放しにしておけば、この光景はいともたやすく失われてしまうだろう。そうならぬように、私達は全力でことに及ばねばならない」

 そこで彼女はようやく景色から視線を外し、俺の方を見た。

「そのために、まず君にはこの世界で名を上げてもらわねばならない」
「え、名を上げる?」

 わざわざ目立たないように着替えたばっかりなのに? なぜに?

「本来なら私と共にすぐにでも瘴気対策に動いてもらいたいのだが、君の場合そうもいかないんだ」
「と言いますと?」

 聞くと、女王様が少し神妙な顔になりつつ俺に身を寄せる。 
 周囲をいくらか確認すると、彼女は声をひそめて言った。

「……先刻盟約の秘術について一通り説明したな」
「ええ」
「あの時君に仕事さえすれば生きながらえると言ったと思うんだが、実は今の君の状態はそう単純なものではなくてな」

 え? この期に及んでまだ何かあるの? これ以上ハードモードになるのは勘弁なのですが……。
 正直先を聞きたくなかったが、さらに深い話になるのか、殊更俺に密着しつつ女王様は続ける。

「君は今秘術により国民達と繋がっている訳だが、この繋がりは彼らの大多数の意に反することをすると弱まり、最後には切れてしまう」

 言いながら、彼女はフードの奥からこちらの顔色を伺うように俺を見上げた。

「彼らの集合意識はとても現実的な思考を持っていて、分を超えた状態をひどく嫌う。つまり今の君の状態は、好ましくないと取られる可能性が高いのだ」

 少し申し訳なさそうにそう言われたところで、俺はようやく彼女が言わんとすることに気づいた。

「……何となく分かりました。要は俺がショボ過ぎるから、早く盟約を結ぶのにふさわしいやつになれ、ってことっすね」
「そういうことになる」

 女王様のそれを聞き、俺は内で凝った緊張の塊をほぐすように深く息を吐いた。
 急に改まって話し出すから何事かと思ったけども、何だ。そう大きな変更はないじゃない。

「まあそれくらいなら、与えられた仕事をこなすうちに何とかなりそうなんで、そこまで気にする必要はなさそうですね。頑張るだけですよ」

 そう言ってみたが、彼女は俺のそれを聞くと、なぜかバツが悪そうに地面に目を落とした。

「いや、違うんだタツキ。そうじゃないんだ。今は私から君に仕事をふることはできないんだ」
「えっ! どうしてです?」

 思わず顔を女王様の方に向けるが、彼女は何か思うところがあるのか、そのまま黙り込んでしまった。
 おいおい何その深刻そうな感じ。まだそんな言い難いことあるの。こっちはもう死の宣告食らってるんですが……。
 
「あの……女王様?」

 呼びかけると、外套の袖からわずかに見える白く小さな手が強く握り締められた。
 表情は見えないが、大きく肩が上下している。呼吸を整えているようだった。

「騙すような形にしてしまって本当にすまないと思っている」

 長い溜めの後、突如として出て来た謝罪の言葉に、俺は目を丸くしてしまった。
 何に対して? なぜ急にこのタイミングで?
 疑問に思いながら次の言葉を待っていると、彼女がぽつりぽつりと、ゆっくり言葉を選ぶようにして話し出した。

「まずなぜ君に私達が仕事をふれないか、だな。これは先程君が言った通りだ。向こうの世界では君も何らかの地位があったかもしれないが、この世界では君はまだ何者でもない。だから私が仕事をふると、国民達の集合意識に反してしまうことになるのだ。何者でもない人間が女王に仕事を与えられるのはおかしいのではないか、とな」  

 俺は呆然としながら、ただ彼女の話に耳を傾けていた。
 そんな、そんなばかな……。そんなこと言い始めたら、今俺が彼女とここにいることすら……。

 嫌な予感が募る。そうして絶句する俺に気づいたか、彼女はチラと俺を見やると、さらに声のトーンを深く落として続けた。

「本当は、魔法やこの世界のことを一から十まで全て君に教えてやりたい。しかしそれも無理なのだ。おそらく私達城の人間と会話して知識を得るだけでも、盟約の秘術による繋がりは弱まってしまう」

 言葉の端々に苦々しいものが見え隠れする。彼女の拳は、いつの間にか外套の裾を絞るように握られていた。

「君がこちらに来てからもう相当な時間が経っている。これ以上君が私達と一緒にいるのは危険だ。だから……ここで一度お別れだ」
「えっ」

 思わず呆けた声を返してしまったが、彼女はそれに全く取り合わず、前に一歩踏み出した。
 
「竜車の中で私は君に言ったな。今から行くのは君の仕事場だと。ここがそうだ。君の仕事場は、この世界だよ。タツキ」
「えっえっ?」
「瘴気についてはとりあえず考えなくていい。まず君はこの世界で、自分の力で、確固たる地位を得るのだ。そして、盟約にふさわしい男になれ」

 彼女は数歩歩み出た後、こちらにゆっくりとした動作で振り返り、フードを取り去った。
 彼女の絹糸のような青白磁色の髪が、陽光に眩しく煌めく。

「この太陽の広場から始まる君の前途が、同じく輝かしいものになることを祈っている。また会おう、タツキ」
「ちょっ、えっ、女王様!?」

 不穏な空気に慌てて声を掛けるが、女王様はそれきりまた踵を返し、竜車の方へと歩いていく。
 そうして呆然とする俺をよそに、彼女はさっさと客車へと乗り込んでしまった。

「え……嘘、でしょ?」

 客車のそばで控えていたマール君も笑顔でこちらにバイバイと手を振り、女王様の後を追う。御者のベアードは不敵な笑みを浮かべると、そのまま御者台に。俺に水をぶっかけたマンダは何を思ったか上に向かって盛大に水を吹き出し、そこに小さな虹をかける。

 それを最後に、彼女達を乗せた竜車はゆっくりと動き出し、遠のいていった。

「あ……あぁ……ぁ……」
 
 追いかけようにも、あんな釘を刺されたら動くに動けない。俺はただ呆然と、そうして竜車が遠ざかっていくのを見送ることしかできなかった。

 何ということだろう。俺みたいなただの穀潰しオタが、あろうことかほとんど着の身着のまま、大した能力も発揮できないまま異世界の真っ只中に取り残されてしまった!

 な、何だってええええええええええええええええ!?





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「ふむ。まさかこれ程とは……」

 目頭を抑えつつ、苦々しげに彼女王様が漏らした。

「まさかこれ程までに才能がないとは……」

 その圧倒的低評価に膝が折れそうになる。俺は半ば泣きそうになりながらも、またそれを口にした。

「わ、我が深淵の底にて燃ゆる真なる意志よ、我がマナをもって……その片鱗を顕現? せよ! イグ・ラーカ!」

 手のひらを前に突き出し、大声で叫ぶ。
 しかし先程と同じように、やっぱり何も起こらない。うんともすんとも言わない。
 
「うーん。間違いなくマナはあるんだけどなあ。詠唱がたどたどしいっていうのはあるけど、それにしても何も起こらな過ぎだねえ。何でだろう」

 がっくりとうなだれる俺にそう言って声を掛けたのは、彼女の隣にいるメイドさんだ。
 何だかやたらとフランクな感じの子だが、ショートボブの金髪、可愛らしい顔立ちの顔に、白を基調としたメイド服がよく似合っている。
 胸は正直控えめのサイズ(というかほぼゼロ)だが、ちょっと短めのスカートから伸びる細くて白いおみ足は目に眩しい。スタイル良好、器量もよし。女王様と比較しても遜色のない、特A級の逸材と言っていい存在だ。

 しかしそんな可愛い子に、なぜか俺はさっきからずっとダメ出しを受けていた。

「魔法は想像力が大事だっていうのはさっき言った通りだけど、どうかな。きちんとイメージしながら詠唱しないとダメだよ。もう一回やって見せてもらう?」
「やー、それはもうだいじょぶです。何とかやってみます」

 もしかしたら恥ずかしがっているのがダメなのかもしれない。それならはるか昔、厨二真っ盛りだったころの俺を思い出せばなんとか……!

「我が深淵の底にて燃ゆる真なる意志よ、我がマナをもってその片鱗を顕現せよ! イグ・ラーカ!」

 き、決まった! 実に10年ぶりの完璧な魔法詠唱!
 家族にバレないようにミニコンポで音楽を流しながら練習していたあの時間が、まさかここに来て生きてこようとは!

「…………あれ?」

 しかし突き出された俺の右手からは、やはり何も出ることはなかった。
 うなだれを通り越し、ついに俺はそこにどしゃりと膝をついた。

(な、なぜ……)

 あの女王様と契約の握手をしてから、そろそろ一時間程になろうか。仕事をするにあたり、実際に俺の力はどんなもんなのかとこうして城の外の広場にて魔法の試し打ちを始めたのはいいものの、このザマである。

 何ということか。どうも俺には魔法の才能がないらしい。つまり俺はこの一時間、ただずっと張り手の練習をしていただけということになる。こんなん魔法どころかどう見てもデブ御用達の物理攻撃です。本当にありがとうございました(泣)。

 しかし俺が魔法を使うためのエネルギーであるマナをかなりの量持っているのは確からしく、女王様とメイドさんはずっと首を左右に傾げ続けている。

「その黒髪とマナ量は、まさに伝承にある黒の賢者と特徴が一致しておるのじゃがな……」

 そう言う女王様は謁見の間の時とは違い、少しカジュアルな白ドレスに着替えていた。威厳ばかりが前に出ていたあの時とは違い、少し普通の少女っぽく柔らかい印象になったものの、その言葉にはやはりいくらかの重みがある。
 だからかは分からないが、俺は再び彼女の口から出てきたその単語に眉をひそめて見せるしかなかった。

 この世界では黒髪の人間というのは貴重らしく、その特異な能力からその人間を『黒の賢者』と呼び、重用してきた歴史があるらしい。

 少し話を聞いたところによると、彼女は今回の国の危機を受け、その黒の賢者を国中探しまわったようだ。しかし結局該当する人物は見つからなったらしく、それならばと手を出したのが、あの召喚魔法だったらしい。

「やっぱり俺、そんな大それたものじゃないんじゃ……」

 つい弱音をこぼすと、女王様が困り顔ながらも慰めるように俺に言う。

「黒の賢者に関してはかなり不確定な部分も多いからの。なに、実際に七色のマナはもっておるのだ。それだけでもすごいことじゃとわらわは思うがな」
「うーん……。実感は皆無なんですが、そういうものですかね……」

 この世界には火、水、土、風等のファンタジーにお約束のマナと魔法があるらしいが、普通の人間はその内の一つか二つしか扱えないところを、黒の賢者はその全てを高いレベルで扱うことができるというチートな存在であるらしい。

 今回女王様はその黒の賢者が召喚されるように魔法を行使したらしいが、喚ばれた俺が実際にはこんな感じなので、女王様もメイドさんもちょっと困惑しているようだ。

 俺はそのマナを持っていても、肝心の魔法が使えない点でその黒の賢者に大きく劣っているのだ。これでは宝の持ち腐れ、召喚ガチャに失敗したと言われても仕方がない。

「ふむ。まだ伝えきれていないものも多いが、残念ながら時間じゃの」

 マジでこんなんでやっていけるのかと不安に思っていた時、彼女がふと俺の後ろの方に目を向ける。なんだろうと思いながらそれを追うように振り返ると、

「うおわぁ!?」

 ついさっきまでは何もなかったはずなのに、いつの間にやらすぐそばに馬車のようなものがあり、俺は裏返り気味の素っ頓狂な声を上げてしまった。
 普通の馬車ならもちろんこんなに驚いたりはしない。俺が驚いたのは、その馬がいるはずの部分に全く別のものがいたからだ。

「オオサンショウウオ……?」

 自然と口に出たそれが一番近いものの気がしたが、それにしてはあまりにもでかい。そもそも2本の足で立ち上がっている時点で全く別の生物であることは明白だ。

 俺が少し見上げるくらいだから、2メートルはゆうにあるだろうか。エメラルド色のぬめぬめとした体はちょっと気持ち悪いが、とぼけた感じの顔はちょっと可愛らしいと言えなくもない。何とも判断に困らされる姿だ。
 訝しげに眺めていると、その大きな瞳と目が合った。

「キュキュキュキュ!」

 俺に文句でもあるのか、そいつは空に向かって甲高い声を上げた。そのまま鼻からふんすと大きく息を吐くと、こちらにその巨大な体躯を見せつけるように仁王立ち。

 ……おい。まさかとは思うが、これ同類だと思われてないか。動物がよくやるマウンティング的なやつだろこれ。確かに魔法の練習でいつの間にやらまた汗まみれだけど、俺はそこまで両生類じみたぬめぬめ肌ではない。断じてない。

 そうだよね? と思わず女王様とメイドさんの方へ顔を向けてしまう。するとメイドさんがそれを解説希望と勘違いしたのか、俺に教えてくれた。 

「驚いた? この子はマンダっていう水竜の一種だよ。頭がよくて人の言葉も分かるから、王都では竜車って言って、こういう車を引いて人とか物を運ぶ仕事を担っているんだ」
「ほ、ほほー……」

 竜! コレが!? 俺のイメージしてたのと違う!
 つい反射的にそんなことを思ってしまったが、そんなささいなディスりでも相手に伝わるような気がして、俺はその感想を心の中にそっとしまい込んだ。

「俺の世界にも似たようなのはいましたが、サイズ感が全然違ってたんでちょっとびっくりしました」
「へ〜君の世界にもいたんだ。可愛いよねえマンダ。小さい頃はよく水のかけっことかして遊んだなあ〜」
「ほ、ほほお。水のかけ合いですか。そいつはぜひともご一緒したかったですねえ」

 何せ子供の頃は特有の無防備さで服とか透けちゃっても気にしなかったりするからね。 特にこのメイドさんは天真爛漫系キャラだし、ちょっとエッチなイベントがたくさんありそう!

 と、ロリ時代の彼女に思いを馳せてデュフっていると、ふと視界の端で大きな物体が動いた。
 見ると、何やら件のマンダ氏が大きくのけぞりながら腹を膨らませている。

(これは……)

 何か嫌な予感がする。引き気味に様子をうかがっていると、マンダ氏がこちらに体を向けた。

「一体何を……ってぶええええあああああああああ!?」
「ああほら、ちゃんと僕らの言ってること分かってるでしょ?」
 
 何をするのかと思ったら、あろうことかマンダは口の中から大量の水を俺に吐き出してきた。
 結構な力のある水流をもろに顔に受けた俺は、そのまま数メートル後方に吹き飛ばされる。
 めちゃくちゃやこいつ。俺が何をしたって言うんや……。

 しばらく放心状態のまま大の字で空を仰いでいたら、メイドさんが手を差し伸べてくれた。

「大丈夫?」
「な、何とか」
「マンダは遊び好きだからね。少しでも遊びの気配がしたら、こうやって誘ってくるから気をつけてね」
「なるほど……気をつけます」

 マンダのそばでは口を滑らせないように、か。やはり異世界生活はいろいろ覚えることがありそうだ。
 今回は何とか大丈夫だったが、もう少し慎重に立ち回った方がいいかもしれない。知らずに即死案件に当たったら終わりだしな……。

 と、そうして自分を改めて戒めつつスウェットを絞っていると、どこかから低い声が聞こえて来た。

「おいおいそんなんで大丈夫なのかぁ? 先が思いやられるぜおいぃ……」

 また何か来たのかと周りをうかがうと、ちょうど客車の後ろから大きな影がぬっと現れた。
 大きい。マンダ程ではないが、それでも2メートル弱はありそうだ。

「ご苦労じゃったなベアード。ぬかりはないか」
「おう。言われた通り客車のグレードは普通のにしといたし、荷物もちゃんと積んであるぜ」

 女王様にそう答えながら、その人物は被っていた外套のフードに手を掛ける。
 そうしてするりと、こともなげにさらけ出された顔に、俺は驚愕した。

(ふぁっ!?)

 声なき声が漏れそうになり、俺は慌てて両手で口を塞いだ。
 フードの中から出てきたのは、人間の顔ではなかった。
 
 黒い鼻に、ω型の口。向こうの世界で言うと、一番近いのは熊だろうか。その顔には肌らしいところが見当たらず、それと見られる場所は一面茶色い毛で覆われていた。
 タレ気味の糸目は一見人が良さそうにも見えたが、ゆったりとした外套の外からでも分かるその筋肉がやばくて、とてもじゃないが気安く近寄る気にはなれない。

(亜人、もしくは獣人……ってやつか。いよいよファンタジーじみてきたな……)

 正直お近づきになりたくないのだが、そうしてびびっている俺を見かねてか、女王様御自らに紹介されてしまった。

「普段王都にはいないのであまり会わんかもしれんが、一応紹介しておこう。こやつはベアード・ベアーズ。少し融通のきかないところはあるが、わらわが最も信頼するこの国最強の矛じゃ」

 それを受け、彼がのそりとその重戦車のような体を動かしてこちらに体を向ける。
 ω型の口元は表情が読みにくいが、俺を見てほのかに笑った気がした。

「──え?」

 が、その瞬間彼の姿がこつ然と消える。
 刹那、視界が何かでかい塊に遮られたと思ったら、凄まじい爆風が俺を襲った。

「ぶろろろろろろろ!」

 風圧で顔の肉がたるみ、ぼけっと口を開いていたところにその爆風が入り込んで、口の中をしこたま蹂躙される。
 何が起こったのかすぐには分からなかったが、次に聞こえてきた声で俺はようやく理解した。

「ほおぉ、これを避けねえってのはちょっと興味深いな。殺気がないと見て棒立ちなのか、当たっても問題ないと見て棒立ちなのか。それとも単に反応できなかっただけなのか……。こんだけ無防備晒されると、逆にどれだか分かんねえな」

 塊の正体は、男の拳だった。岩壁から荒く削り出されたかのように節くれ立った巨大な拳が、俺の鼻先一寸手前で止まっていた。
 理解した今でも信じられないが、彼の姿勢とこの拳を見るに、どうやら俺は彼から文字通りの『寸止めパンチ』を受けたらしい。

 ただのパンチでこれとか、女王様が信頼するだけのことはある。こんなんまともに食らったら即死です。本当にありがとうございました!
 いささか飼い犬のしつけがなってないのでは、と女王様に視線を送ろうとしたが、突然眼の前の彼に右手を強引に取られてしまう。

「ベアードだ。よろしくな、黒の賢者」

 正直怖いのでこれ以上関わりたくなかったが、握手を求めてきた人間を邪険にはできない。
 とりあえず失礼にならない程度に俺はその手を握り返し、にこやかに応じた。

「ああ、はい。ドルオタです。よろしくおねがいしますぅううい!?」

 しかしそうして無難にやり過ごそうとしてる俺に対し、彼はぶんぶんと肩が外れそうになるくらいの強さで腕を振る。
 びびって変な声を上げてしまう俺を見て彼はカラカラと笑い、外套をバサリとなびかせながらさっそうと踵を返した。

「わりぃが名前を覚えるのは苦手なんだ。もし俺が無視できなくなるくらい強くなれたら、そん時また教えてくれ」

 そんじゃ、と軽い調子で右手を上げ、のっしのっしと客車の方へと戻っていく。
 っく! もう少しで肩が外れるところだった。これだから脳筋キャラは……!

 こういう武闘派が一人周りにいるとかなり異世界生活の安全性が増しそうなのだが、同時に危険も持ってくる可能性があるので扱いが難しいところだ。
 幸い今のところ俺に興味はないみたいだし、しばらくはノータッチで置いておくのがいいだろう。触らぬ武闘派に祟りなしってやつだ。

「では行くとするか。ベアードは御者を、マールもこのまま引き続き同行せよ」 

 女王様のそれに対し、それぞれがはい、おうと応じる。
 女王様が客車に乗り込んだ後、俺もマールと呼ばれたメイドさんに促されて客車に乗り込む。

 全体が木製の、いたって普通の客車だ。ガラス製と思われる窓とカーテン、4人がけくらいの幅の椅子部分には簡単な布が敷かれ、一応客車としての対面は保たれているといった程度のものだった。
 女王様が乗っているのを隠すためのカモフラージュなのかもしれないが、それでも王族が乗るには正直少ししょぼい。

 広さも普通の体型の人を元に設計されているらしく、俺が入るとかなり狭い。必然、俺が一人で座席を独占し、女王様とメイドさんがその対面に座るという形になってしまう。

 美女二人と足が触れ合うようなその狭さの中、俺はいたたまれなくなって無理やりメイドさんに話を振った。

「そう言えばメイドさんマールって言うんですね。謁見の間にいた人もマールって呼ばれてましたけど、結構よくある名前なんですかね」

 そう聞くと、二人は顔を見合わせた。
 何か変なこと聞いたかな? と思ったその直後、二人が同時に笑い出した。

「な、何で笑うんですか?」
「ふふっ。いやだって……」
「のぉ?」

 と、再び俺を置いてけぼりで笑い合う彼女達。
 何なのこの子達。てか女王様とメイドさんなはずなのに何かお互いに気安すぎひん? どういう関係なの君達……。

「まあこれはわらわの傑作であるからして、気づかぬのも無理はないか」
「女王様、ずいぶん化粧上手くなりましたもんねえ……」

 そうして嬉しそうに胸を張る女王様と、少し複雑そうに苦笑するメイドさんを見ても、やはり俺には何を言っているのか分からなかった。
 ただおろおろとしながら二人を見比べていると、女王様が嬉しそうに言う。

「こやつがそのマールじゃぞ、ドルオタ」
「えっ?」

 俺はメイドさんの方に再び目を向けた。

「そしておそらく気づいていないだろうから教えておくが、マールは男じゃぞ」
「…………え?」 

 嘘だろ? この特A級メイドさんが? マジかよ。完全に女の子にしか見えん。男の娘ってリアルに存在したのか……。
 若干興奮気味に身を乗り出しつつ見ると、彼は少し恥ずかしそうに身を捩った。
 確かによく見ると、あの謁見の間にいた子と瓜二つだった。

 元々素材が良過ぎるところに、彼のその中性的な魅力を高める完璧なまでのナチュラルメイクが施されていた。濃厚なドルオタである俺をもってしても、その完成度に口を挟む余地が一切ない。
 いやマジ、何そのピンクのきらきらした唇。断然正解過ぎてひれ伏してからの土下寝求愛ですわこんなん……。

「ふふん。すごいじゃろう。マールは宮廷魔術師としても、わらわの臨時専属メイドとしても至極優秀じゃからの」
「いやほんとすごいですよ! まさかこんな作品がこの世に存在するとは!」

 これ向こうの世界だったらアイドルになれば世界取れる器やで。今すぐ連れ帰ってプロデュースしたいレベル……。

 感動のあまりがっしと女王様の両手を掴んでしまうと、女王様が目を丸くする。
 数瞬そうして呆気に取られていたと思ったら、女王様はハッとしたように俺の手をぎゅっと握り返し、心底嬉しそうに顔をほころばせた。

「おお……おお! 分かってくれるかこの素晴らしさを!」
「もちろんですよ! この衣装! メイク! 仕草! そしてメイドさんなのにあえて言葉遣いをラフなままにしているのもポイントが高い!」
「おおおお! そこまで分かっているとは!」

 さすがは黒の賢者! と俺を褒め称える女王様に対して、マール君の方は半ば呆れたように俺達を見ながら嘆息一つ。

「何か、すごいコンビが誕生しちゃった気がする……」

 まさか女王様がこっち方面の造詣に深いとは。もしかしたら俺とすごい気が合うんじゃないの。今度ゆっくり話してみたいな。
 と、そんなふうに少し中の雰囲気を和やかにできたところで、ちょうど竜車がゆっくりと動き出す。
 
「そう言えば次はどこに行くんです?」

 聞くと、女王様がふむと思案げに顎に手を当てた。
 街でも紹介してくれるのだろうか。確かにこれからここで生活するとなったら、街の雰囲気くらいはどんな感じなのかは知っておきたいところだ。

 そう思ったが、しかし彼女はううむとしばらく唸った後、なぜか意味深な溜めを作りつつ、こう答えた。
 
「まあ、そなたの仕事場……と言ったところかの」






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