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たそのつぶやき

とりあえずですが、なろうに投稿はじまりました。よろしくです^^


一から始めるユートピア! ~デブでもできる異世界社畜生活~




なろうカスタム序盤が一応完成しました。

プロローグ
1話「拉致られたデブ」
2話「虹色のデブ、就職す」
3話「宣告」
4話「職業:盟約の担い手」
5話「発覚! 黒のぽんこつ賢者」
6話「まさかの仕打ち」
7話「立ち上がるデブ」
8話「デブ氏、年貢を納める」
9話「冒険者ギルド」
10話「デブ氏、早速やらかす」
11話「エクレア」
12話「面接戦線異状アリ」

13話「面接開始」

14話「寡黙な少女」

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インターネッツの端の端で、今日も一人の男が淡々とゲームをしている。
そんな場所があってもいいじゃない。だってようつべだもの。

マリオ&ルイージRPG最終回身内向け版
こちら

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 年齢は14、5歳くらいだろうか。女王様やエクレアに比べるとまだまだ幼さの残る顔つきだが、すでに将来の器量よしの片鱗は随所に見え始めている。
 レオナルド氏の容姿からして予想はしていたが、綺麗な緑色の髪が印象的な、とても可愛らしい少女だった。

 エクレアより短めのショートカットだが、もみあげの部分だけが長めに伸ばされていて、それがリボンのようなもので綺麗に結われている。
 その太めに結われた髪を揺らしながら彼女はゆっくりと歩き、やがて、彼女は俺の目の前に立った。

 レオナルド氏と同じく青を基調とした、ディアンドルのような服装がよく似合っていた。ただ下はスカートではなくキュロットのようなものを履いていて、これがまたアクティブな感じのアイドル衣装のように見え、大変可愛らしい。

「…………」

 しかしそんな可愛い子が、なぜかずっと黙ったままジト目で俺を見下ろしてくる。まだ会ったばっかなんだけど、俺何かしましたかね。もしかしてデブが気に入らないの……?

 そうして見つめ合うこと数十秒。沈黙に耐えかねて俺が口を開きかけたちょうどその時、ふいにどこかから声が聞こえて来た。

「いやはやいやはや、まさか2回も呼び出されるなんてね。精霊使いの荒い人達だよ、全く」

 と、そんなぼやきめいたことを言いつつ部屋に入って来たのは、人ではなかった。

 つぶらな瞳に、乳白色のつるりとした肌。何やら額縁のようなものを体に提げた体長30センチ程のイルカみたいな顔をした物体が、フクロウか何かのように胸ヒレ部分を振りつつふよふよと飛び、こちらに向かって来る。

 頭にはどうやってくっついているのか、斜めに小さなシルクハットのようなものをかぶっている。その帽子に合わせるかのように蝶ネクタイ付きのちょっとフォーマルっぽい衣装も羽織っていたが、それが逆により珍獣感を増す結果となってしまっている。

 その得体の知れないものは、今もまだ目の前で黙っている少女の肩の上に乗ると、

「はあ~やれやれっと。ほい、お嬢」

 体に提げていた額縁のようなものを、ヒレで器用に彼女に手渡す。

「…………」

 彼女はそれを黙って受け取り、どこかから持ち出したペンでその額縁の中央部分に何かを書きつける。
 そしてそれを、こちらに少し不満げな顔を向けつつ俺に見せた。

『ティアッツェ・マグナース』

 またあの光る文字、マナ文字だ。例によって書いてある文字は読めなかったが、発音が頭の中に入って来た。

 光る文字が書けるということは、おそらくあの額縁に入っているのは魔鋼紙なのだろう。しかし、何でわざわざ書いて見せるのだろうか。
 訝しげな視線をレオナルド氏に向けてみると、彼は眉尻を下げ、困ったような顔を俺に向けた。

「うん、もういいよ。ありがとうティア。フージンも、わざわざありがとう」

 彼がそう言ってもティアと呼ばれた少女はまた黙って頷くのみだったが、イルカ顔が代わりにそれに答える。

「うむ。まあお嬢が行くところならワタシも行く。そう改まって礼を言われるようなものでもないさ」

 偉そうな物言いのイルカ顔だったが、レオナルド氏は特にそれを咎めることはせず、ただ笑顔で頷いた。
 それを見るとイルカ顔はふふんと満足そうに胸を張り、とっくに踵を返していた少女の後を追うように、さっさと部屋から去って行った。

 何だか慌ただしい上に、よく分からない自己紹介だった。
 本当に顔合わせだけという感じだったが、今の一連の流れで一つだけ推し量れることがある。

「もしかして彼女、喋れないんですか?」

 率直に聞いてみると、レオナルド氏は肩を下げ、俺に少し疲れたような顔を向けた。

「ええ。もうかれこれ10年程になります」

 そう言うと、彼はますます表情を暗くした。
 唇は険しく引き結ばれ、眉間に深くシワが刻まれる。まさに沈痛、といったような面持ちで、彼は床に目を落とす。

 10年というのは、他人の俺からしても尋常な数字ではない。もう少し詳しく聞きたいところだったが、この様子だと先を促すのは酷かと思い、俺はとりあえず話を先に進めた。

「……大体分かりました。つまりこれは、ただ彼女の導師をやればいいという仕事ではなく、彼女のあれをどうにかしてくれと、そういうお話なんですね?」

 すると彼は、まだいくらかつらそうな顔を残しつつもそれに頷いた。

「そういうことになります」

 おそらく彼としても、いろいろ手を打ったに違いない。しかしそれでもダメで、仕方なく外部に頼ろうということなのだろう。
 なるほどね。確かにこれは難しい。依頼が悪名高い掲示板に貼ってあったのも、その達成困難さゆえ、ということか。

「どうでしょう、やはり難しいでしょうか」

「そうですね……。さすがに10年ともなると、並大抵のものではないはずですから」

 あまり力強い言葉を返せなかったが、こうした反応は見慣れているのか、彼は特に気落ちする様子は見せなかった。

「まあ、そうですよね。しかしあなたはあの黒の賢者の一族。いきなり治したりするのは無理にしろ、彼女に何らかの変化は与えることができるような気がします。なのでまずは一度、娘と話をしてみてはもらえませんか? もし続けられそうなら、そのままあなたを雇用いたしますが」

 え? マジで?

「やります」

 考えるより先に口が動いていた。
 彼も俺のその即答に反応できず、え? と目を丸くする。

「やらせてください。必ずやお嬢様の心を開いてみせますゆえ!」

 ダメ元で来たはずのこの面接だったが、何とまさかの雇用予告宣言である。ここを逃す手は絶対にない。
 彼は俺のその気勢にますます眉を上げた。しかし俺がそのまま真剣な顔で見つめ返していると、ふっと顔をほころばせて笑みをこぼす。

「そうですか。それでは早速お願いしてもいいでしょうか」
 
「はい喜んで!」

 某居酒屋の店員のごとく元気よく返事をすると、彼はまたニコリと笑った。

「ではバーンズ。ドルオタさんを娘の部屋に案内してやってくれないか」

「えっ? ……うわ!」

 視線が少し外れたので変に思っていたら、いつの間にかバーンズさんが俺のすぐ後ろに立っていた。気配全く感じなかったんですけど。忍者か何かかな?

「こちらに」

 促され、早速立ち上がろうとすると、
 
「ではドルオタさん、よろしくお願いしますね」

「あ、はい。何とかやってみます」

 去り際になぜかレオナルド氏に意味深な微苦笑を向けられる。少し妙に思ったが、俺はそのままバーンズさんの後を追った。
 
 さっきまで皆で集まっていた玄関ホールから、2階へと上がる。そのまま真っすぐに進み、突き当たりのT字路を左に曲がる。

 きっちりと綺麗な赤い絨毯が敷かれた広い廊下だ。端が見えないほどのべらぼうな長さの廊下ではないが、それでも100メートル以上はゆうにある。さすがは貴族の家、と言ったところか。

「こちらです」

 と、その廊下を半分程行ったところ。両開きの扉の前で、バーンズさんが歩みを止めた。
 ドアノブに掛札が掛かっていたが、読めない。しかしたぶん、あのティアちゃんの名前が書いてあるのだろう。 

(まさかここまで来れるとはな……) 

 異世界転移のボーナス設定、『黒の賢者』を使ったとは言え、日本であれだけ堕落を貪っていた俺が、まさかほぼほぼ雇用が決まった内々定をもらえるとは。
 仕事もそんなに大変じゃなさそうだしな。アレを治せって言われたらそりゃきついけど、そこまでは期待してないみたいだし、全然どうにでもなりそうだ。

「じゃ、行きます」

 俺のそれに、ご武運を、と腰を折るバーンズさん。
 ずいぶんと大げさだなあと思いつつもどうもと返し、俺は早速ドアをノックした。

「ティアッツェさん? 先程お会いしたドルオタという者です。これからあなたの導師を請け負うことになるかもしれないので、少しお話させていただけませんか?」

 数瞬の後、入りたまえ、という声が返ってくる。さっきのあのイルカ顔の声だ

 とにかくことを荒立てないように、慎重に話を聞くスタイルで行こう。それで当面の生活基盤は確保できる。簡単だ。とても簡単な仕事だ。

 と、そうして割と意気揚々とドアノブに手を掛け、部屋に入った俺だったが……、

「じゃあすいません。ちょっと失礼しまー……ってぶふぇ!?」

 突如冷たい液体が、大量に俺に降りかかった。
 完全に意識の外のことで当然避けられるはずもなく、俺はそれを頭からモロにかぶってしまった。一瞬で全身ずぶ濡れである。

 すんすんと腕を嗅いでみたが、幸い匂いとかはない。たぶんただの水だ。
 しかしそれでも、女王様からもらった一張羅が台無しになったことに変わりはない。

(一体これは……)

 呆然としつつも正面に目をやる。すると、さっきの二人(?)が、椅子に腰掛けて優雅にお茶を楽しんでいるのが目に入った。俺がこんなことになっているのに、こちらを気にする様子は全くない。

 しかし俺は、同時に見てしまった。
 ことりとカップを置いた彼女の横顔。口元に、ニヤリと意地が悪そうな笑みが、ゆっくりと浮かぶのを……。

 何……だと……?


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 しばらくホールの女性達と呆けていた俺だったが、彼女がだるそうに階段に腰掛けた時にようやくハッと我に返り、彼女に駆け寄った。

「ど、どしたのエクレア。何かボロボロになってるけど……」

 もはや燃え尽きたボクサーみたいになっているエクレア氏にそう声を掛けてみると、彼女は力なく頭を上げ、疲れ切った顔を俺の方に向けた。

「何があったの? まさか面接でそんな消耗する訳ないよね?」

 するとエクレアは、「あ~」と言い淀みつつ頬をかく。

「まあ、何ていうかなあ……。これも一応面接のうちになるのかな。ちょっと特殊な感じの面接だった、かな」

「ええ……? マジで面接なの? どんな面接なのそれ……」

 と、俺がガチで引いていると、そこで突然彼女がゴメン! と手を合わせた。

「な、何?」

「いやさっきの話! さっき君に情報売るって言ったじゃない? あれ無理になっちゃった! ゴメン!」

「え、そうなん? 何で?」

 聞くと、彼女は黙ってすっと自分の右手を前に差し出した。

「実はその……口止めされちゃって。ここであったことは口外しないようにって」

 そう気まずそうに言ったエクレアの右手には、いくらかの金が乗っていた。銀貨1枚と、あとそれ以下の硬貨が数枚。

「……マジか」

 口止めとは穏やかではない。それはつまり、隠したい何かがあるということだ。
 この感じだと結構やばいことが起きてる感じがする。どうする、帰るか? もうカンニングもできないし。しかし帰っても何ができるわけでなし。ぐぬぬ……。

 悩んでいると、また階段右のドアからあの執事っぽい人が現れる。

「では次の方、どうぞ」

 しかし彼がそう声を掛けても、動く人はもちろん皆無。
 そりゃそうだ。こんな怪しい面接普通受けれん。

「次の方、いらっしゃいませんか? 我こそはマグナース家ご息女の導師にふさわしい。そう思う方は、ぜひとも挑戦していただきたく存じます」

 再び彼が発破をかけるようにそう呼びかけたが、前に出る人はやはりいなかった。それどころか、

「すみません。私、辞退します」

 女性達の一人が意を決したようにそう切り出すと、他の女性達も「私も、私も」とどんどんとそれに追随していく。
 これにはさすがの彼も明らかに眉をひそめたが、別段それを咎めることはなく、ただ頷いた。

「それは残念です。竜車を待機させておりますので、辞退される方はそちらをご利用ください」

 彼のその言葉に、彼女達は肩の荷が下りたかのようにほっとした表情を見せ、ぞろぞろと連なって外へと出て行ってしまった。
 残されたのは、俺とエクレアの二人だけだ。

「あなたはどうされますか?」

 皆がいなくなれば、当然矛先は俺へと向かう。 
 問われた俺は、思わず救いを求めるようにエクレアの方を見てしまった。
 よっぽど不安に駆られた顔をしていたのかもしれない。彼女は俺の顔を見ると、
 
(大丈夫だよ)

 と、自分の方がボロボロな状態にも関わらず、優しげなささやき声で答えてくれた。

(正直ちょっと大変な仕事だと思うけど、君ならできるんじゃないかなあ。何となくだけど)

 非常に根拠に乏しい激励である。しかしその彼女の言葉は、なぜか心の奥深く、芯にまで響いた。
  
 会ったばかりの人間の言葉が、どうしてこうも刺さるのか。理由は分からなかったが、何にせよ予想外に力強い後押しがもらえた。
 胸に手を置き、一度大きく深呼吸する。そうして俺はようやく心を決め、そばに佇む彼に向き直った。

「受けます。よろしくお願いします!」



※※※



「どうぞ。こちらです」

 彼に促されるまま、俺は後ろ髪を引かれつつもその部屋に足を踏み入れた。
 エクレアはさっきの女性達と一緒に近くの街に戻るらしい。しばらくはその街を拠点にするとのことなので、また会えればいいなと思う。

 ともあれ、今は目の前の面接だ。ケツに力を入れて姿勢を正すと、正面のいかにも高そうな数人掛けのチェアに座った人から声を掛けられた。

「ようこそ当家へ。どうぞこちらへお掛けください」

 年齢は俺と同じで20代半ばくらいだろうか。見事な金髪碧眼だが顔の彫りは浅めで、日本と欧州辺りのハーフのような感じの美青年だ。青を基調とした燕尾服のようなシルエットの服装が、いかにも異世界の貴族といった感じでよく似合っている。

 神様は本当に不公平だなあと思いながらそのイケメンぶりに見入ってしまっていると、彼がその形のいい眉を上げつつまた俺を促した。

「どうぞ?」

「あ、はい。失礼します」

 言われて俺は彼が座っているチェアとテーブルを挟み、対面のチェアに腰を下ろした。

(エクレアの様子からしてどんな面接なんだよと思ってたけど、今のところ別に普通だな……)

 置かれている家具や調度品の類は貴族らしく豪華な部類に入ると思うが、全体的に見ると普通の応接室といった感じで、部屋にも特におかしなところはない。
 ただその中に一つだけ、異様な空気感を出しているものがあった。

 俺が呆気にとられながらそれを見上げていると、彼がその視線を追い、ああ、と声を漏らす。

「あの剣が気になりますか?」

「え、ええ。まあ」

 部屋の壁に備え付けてある暖炉の上に、身の丈3メートルはあろうかという巨大な剣が水平に飾られていた。

 その太い刀身だけを見れば、一見無骨な品のようにも見えた。しかし鍔や柄部にはかなり細かい細工も施されていて、全体を見ると一種の芸術品のように見えなくもない。

「すごい剣ですね。儀礼用の剣とかですか?」

 もしくは日本で言う家紋と言うか、この家のシンボルみたいなものなのかしら。そう思って何となく質問した俺だったが、彼はそれにあははと軽く笑って返すと、少し困ったように頬をかく。

「そうですね。確かに今はもう飾りみたいになってしまってますけど、昔は実戦で使える者もいたんですよ」

「えっ」

 マジで? 何か巨人族とかそういうのじゃなくて??
 と、驚愕の顔を向けたはずの俺だったが、彼の方はそれについて深く話す気がないのか、さらりと流されてしまった。
 
「まあその話はまたいずれ。貴方がこちらで導師として働いていただけた時に折を見て、ということで」

 ふむ。少し不完全燃焼感はあるが仕方ない。何かあんまり言いたくなさそうだし、ここは引いておくことにしよう。
 開いたままになっていた口をつぐんで見せると、彼はニコリと微笑みつつ、さて、と手を叩いた。

「早速ですけど、自己紹介から始めましょう。すでにご存知かと思いますが、私がこの家の主、レオナルド・マグナースです」

「僕はお……いや、ドルオタ・デヴです。本日はよろしくお願いいたします」

「ドルオタさん、ですか。こちらこそよろしくお願いします。では一応お持ちになった魔鋼紙にお名前を書いて、こちらで預からせてください」

 キラキラネームも真っ青のふざけた名前のはずだが、彼はただそう言ってにこやかに応じてくれた。
 俺はリュックから魔鋼紙を取り出し、それに差し出されたペンでサインをして彼に手渡した。
 今のところ悪い印象は与えていないはずなので、このままの感じで行きたいところだ。

「ふむ。しかしドルオタさんというのは珍しいお名前ですね。どの辺りの出身
なんでしょうか」

 両手を膝の間で合わせ、軽く前のめり。完全にしっかり聞く体勢で、彼は俺にそう言った。

(……来たか)

 面接と聞いた時にまず聞かれるだろうなと思った質問である。
 一応これには秘策がある。しかしこれがちゃんと通用するか。それが問題だ。
 
 まだ不安もあったが、もうやるしかない。彼に分からないように鼻で深く深呼吸してから、俺は彼に向かった。

「どの辺り、というのはちょっと難しいのですが、かなり遠くの方にある、黒髪の人間達が住む地からやってまいりました」

「黒髪の人間達が住む? それはどういう意味でしょうか」

「そのままの意味ですよ。こちらでは黒髪の人間は珍しいようですが、僕のいたところではほとんどの人が黒髪でした。僕のこれも染めている訳ではなく、生まれ持ったものなんですよ」

 内心ドキドキしていたが、俺がそう言った瞬間、彼は劇的な反応を見せてくれた。

「な……それは本当ですか!?」

 よほど信じられなかったのか、彼はその場に勢いよく立ち上り、その大きな目をより見開いて俺を見下ろした。
 よしよし。いい流れだぞ。

「本当ですよ。貴族の方に対して嘘をつく度胸は僕にはありませんし」 

 まあ問題はそれを証明することなんですがね。それができないことには俺のこの秘策はたぶん通らない。
 さてどうしよう。異世界から来たこととか全部ばらしちゃうか? でもそれも結局信じてもらえないと意味ないしなあ。

 と、そうしていろいろ頭の中でシミュレーションしていたのに、事態は俺の思いもよらない方向に進んで行った。 

「素晴らしい! まさかあの伝説の黒の賢者の一族が当家に来てくださるなんて! ぜひとも我が娘の導師を引き受けていただきたい!」

「えっ」

「早速詳しいお話をしたいのですが、まずは娘に会っていただいた方が話が早いでしょう。バーンズ! 娘を呼んで来てくれ!」

 彼がそうして入り口の方に声を上げると、さっきの執事っぽい人がかしこまりましたと礼をして部屋を出て行く。
 
(えっ、そんなんでいいの……?)

 何だか話が一足飛びに進んだ感がある。普通ここはもっと疑うとこなんじゃないの? 探しても黒髪の人全然いないからって、女王様が異世界から召喚してまで呼んだのが俺なんですよ? そんなそこら辺に転がってる訳なくない?

 まあでもどうやって信じてもらおうかというのが問題だったから、ありがたいと言えばありがたい。ここは口を挟まずにおくのが正解だろう。ん~簡単でしたw

「いやしかし、まだお若いのに立派なお屋敷ですねえ。僕はほとんどその日暮らしみたいな感じなので、羨ましい限りです」

 娘さんが来るまでの間に何か聞かれるのもまずいと思い、そこできっちり先手を打つ俺氏。抜け目がない。
 と、世間話にでもなればと何となく聞いた話題だったのだが、彼がそれに笑って返した言葉は衝撃的だった。

「いえいえそれほどでも。若いと言いましても、もう今年で34にもなりますからね。これくらいの人はいくらでも……」

「え、34!?」

 顔若過ぎい! 俺と同い年くらいだと思ってたのに10歳も上かよ! 顔面格差だけでもうお腹一杯なのに!
 絶句する俺を見て、彼はしかし落ち着いた物腰で淡々と答える。

「ええ、もういい年ですよ。体も万全ではありませんし、これ以上は出世もあり得ません。本当に、そんなに大したものではないんですよ私は」

 言いながら、少し肩を落とす。直前まであった彼の体全体を覆う覇気が、その台詞を口にした時だけいくらか陰ったように見えた。

 見たところ五体満足に見えるが、どこか悪いのだろうか。異世界だから、もしかしたら俺の知らない病気とかもあるのかもしれない。
 こういう時、ツッコんでいいのか悪いのかが人生経験の乏しい俺には分からない。

「あ、そう、なんですか。あははは……」

 と、そうして気の抜けた返事をしてしまった時。
 コンコンと、助け舟のように部屋にノックの音が響いた。

「来たようですね」

 俺が入ってきた後ろの扉ではなく、左にあるもう一つの方の扉が開く。
 
「やあすまないねティア。今日は珍しく二人目の方が面接を受けてくれたから、もう一度自己紹介をお願いしてもいいかな?」

 ゆっくりと姿を表したその人物に、彼が柔らかな笑みを見せつつ声を掛けると、彼女はそれにコクリと頷いて見せた。





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「おお……」

 王都から幌竜車に揺られること数時間、俺はついに仕事の面接の場、マグナース邸へとたどり着いた。
 ファンタジーの貴族の家だからめちゃくちゃでかいのだろうと身構えていたのだが、実際に見てみるとそれ程途方もない大きさではなかったので少し安心した。

 しかしそれでも門から数十メートル離れたところにやっと家が建っているので、やっぱりそれなりにでかくはある。
 そうしてお上りさんのように門前できょろきょろしていると、ふいに正面から誰かに話しかけられた。

「いらっしゃいませ」

「うわっ!?」

「当家に何の御用でしょうか」

 突如として眼の前に現れたのは、この屋敷の執事みたいな人だろうか、品のいい髭を生やした初老の男性だった。
 黒系のタキシードっぽい服をかっちりと着こなし、真っ直ぐと伸ばされた背すじが油断のなさを感じさせる、すこぶるカッコいいイケおじだ。

 白髪が混じってはいるが、少し硬そうなその灰色の髪のオールバックと意志の強そうな太眉により、年齢をほとんど感じさせない。180を越すだろうその身長も相まって、非常にエネルギッシュな印象を俺にびしびしと与えてくる。

 彼はそのすらりとした長身を折ると、ビビってその場に転んでしまった俺を覗き込んだ。
 
「驚かせてしまいましたかな?」

「あ、いえいえ。全然大丈夫です」

 と、尻をはたきながら立ち上がろうとすると、少し離れたところからまた声が掛かった。

「むぐむぐ……どしたの君? そんなところで尻もちなんかついちゃって」

 そう言いながら現れたのは、屋敷に到着してからなぜか姿が見えなくなっていたエクレアだった。
 手には何かの木の実が握られていて、彼女はしゃくしゃくと小気味のいい音をさせてそれにかぶりついていた。

 しかし俺の前に人がいるのを見つけると、「あ、やば」みたいな顔をしてさっとそれを後ろに隠した。

「や、やーすみません。私達ここに仕事の面接に来た者なんですけど、今日って面接は……」

 と、きまずそうに下から伺うようにエクレアが問うと、

「面接はいつでも開催されております。ご安心ください」

 彼はそう言って俺達にニコリと朗らかな笑顔を見せた。

 それを見て、「よかったバレてないみたい……」みたいな視線を俺に送って来たエクレアだが、どうですかねえ。バレバレな気がしますけども。
 て言うか俺にそんな意味深な目配せ送らないでね。共犯みたいになっちゃう。

「ではどうぞこちらへ。本日午後の部の面接は間もなく始まります」

 しかし彼は全くそれを不審に思わなかったようで、俺達をそのまま中へ招き入れてくれた。ひゅ~あぶねえあぶねえ。

 敷地内は道部分が綺麗な石で舗装され、適度にガーデニングなどもなされているという、いかにもな貴族らしい庭が広がっていた。
 やっぱ金持ちなんかなあ……と、その整えられた庭をエクレアと二人でほえほえ言いながら歩いていると、後ろ手に前を歩く彼が言った。

「本日もたくさんの方がいらっしゃっております。お嬢様の導師就任への道、大変険しいかと思われますが、ご武運をお祈りしております」 

「は、はあ。ありがとうございます」

 ご武運とはまたずいぶんとおおげさな言葉だなあとは思ったが、とりあえずお礼は言っておく。
 って言うかそれより今、たくさんの方って言いました? そんなにいるの? 悪名高い掲示板の仕事なのに?

「こちらです。どうぞお入りください」

 んなばかな、と思ったが、そうして彼に促されて屋敷に入ってみると、その言葉が嘘ではないことがすぐに分かった。
 そのだだっ広い玄関ホールには、何ともうすでに10人以上もの人が集まっていたのである。
 
「……あら~」

 これには能天気キャラっぽいエクレア氏もさすがに苦笑い。おいおいエクレアさん? 話が違うんじゃないですかね~え?

 しかもそれだけじゃなく、気になることがもう一つ。
 俺はエクレアに身を寄せ、耳打ちしてみた。

「あの~……。何か女の人しかいないっぽいんだけど、これってたまたま? それともなんか理由あんの?」

 そう聞いてみると、彼女は「え?」と少し驚いたような声を上げた。

「知らなかったの? たまたまじゃないよ。導師って教える子の性別と同じ人がやるのが普通だから」

「え! そうなの!?」

 マジかよ。じゃあ俺門前払いされるんじゃないの。

「まあでも、絶対ダメって訳じゃないから。あの執事っぽい人も中に入れてくれたんだし、そこは別に大丈夫なんじゃない?」

「ふうむ……。まあ、そうか。ちなみに一応確認なんだけど、導師っていうのは要するに、先生みたいなことをする人ってことでいいんだよね?」

「それで合ってるよ。先生よりはもっと広くいろいろ教えるって感じだけどね」

 ですよね。字面からまあ大体そんな感じの仕事だろうとアタリをつけていたが、大きく外れていなくてよかった。

 まあこの世界に来たばかりの俺では、もちろん魔法を教えたり勉強を教えたりはできない。しかし日本だろうと異世界だろうと、人の世の理にそう隔絶した違いはないだろう。それなら少しは教えられるものもあるはずだ。

「なるほどね。まあなかなか難しいかもしれないけど、何とかなるだろ! よーし、やってやるぜ!」

 そうして決意を新たにする俺氏。そんな俺を見て、エクレアがおお~と感心したような声を漏らす。

「いいねえいいねえ。やる気満々だねえ」

「ふふ、まあね。これ落ちたら結構本気で仕事ないし、命かかってるからね」

 マジでね。言葉通りにね。

「なるほどなるほど~。そんなドルオタ君にいい話があるんだけど、どうだい? ちょっと聞いてくれないかな?」

「うん? いい話?」

 そう返すと、エクレアは何やら意味深にニヤリと笑った。
 それから周りを気にするそぶりを見せると、肩を縮めつつ俺に寄り、耳打ちした。

「あたしがさ、何とか最初の方に面接に潜り込むから、君はその面接の情報を買ってくれない?」

「え? 情報? どんな?」

「いやほら、面接なら先に聞かれること知っておいた方が得じゃない? だからあたしが先に行ってそれを聞いて来て、君に教える。そして君は順番を最後の方にして、皆が面接を受けている間にその対策を練る。どうかなこれ」

「な!? そ、それは!?」

 天才か? いいじゃんそれ。それで行こうよ。

「え、でも、たぶんこれって一人しか受からない仕事だと思うんだけど、エクレアはそれでいいの?」

 一応そう聞いてみると、彼女はふるふると首を振りつつ言った。

「や~、いいのいいの。掲示板の仕事はもうコリゴリだってさっき言ったでしょ? でも君はそれを聞いても行くって言うから、じゃあ何かあたしにもできないかな~って考えたのがコレなんだから。気にしなくてよし!」

 ははあなるほど、そういうことか。と、俺はそこで手を打った。
 全然辻褄の合わない行動を取るからアホの子なのかなと思ってたけど、ちゃんと考えて動いてたのね。ごめんね勝手にアホの子認定して。

 さすがは異世界人。俺なんかより全然したたかに生きてるのかもなあと感心していると、エクレアが続けて言った。
 
「で、どうする? 買う? そんなに大変なことじゃないし、今回は特別に銀貨1枚でいいよ」

「ふむ、銀貨1枚か……」

 うーん。銀貨1枚ねえ。
 まだ金の価値があんまり分かっていないので、こういう場合の相場というのもよく分からない。彼女は結構いい人そうだけど、実は割とまたぼられてたりするんじゃないだろうか。ううむ……。

 しかしこの仕事に賭けている俺からしたら、やっぱり面接の内容が事前に知れるのは大きい。ここはケチケチせずに投資すべきだろう。命が掛かっている以上、四の五の言ってる場合じゃない。
  
「よし分かった! その情報買うよ!」

「毎度ありぃ!」

 俺が返事をするやいなや、彼女は嬉しそうに揉み手をしつつ、元気よくそう言って笑った。
 と、俺達の謀略が完成を見たちょうどその時、周りで動きがあった。

 入り口から見て右側のドアから誰かが出て来る。さっきの執事っぽい人だ。
 彼はそれから俺達を一度見回すと、小さな鐘のようなものをチリンチリンと鳴らす。

「ではこれより、面接の方を始めさせていただきたいと思います。順番等はこちらでは特に決めませんので、始めたい方からこちらの部屋にお入りください」

 ホールに低いながらもよく通る彼の声が響く。
 しかしそれを聞いても、全員お互いに牽制するように見合って誰も動こうとはしない。

 まあ、そうなるよな。こっちの世界の人からしたらこれは悪名高い掲示板の仕事なんだし、とりあえずちょっと様子を見たいなあとなるのは仕方がないところだ。
 ただその理屈は、そもそも面接に受かる気のない人には全く関係がない。

「はいはーい! あたし一番ね~!」

 その理の外にいる人物、エクレアはそう元気に手を挙げると、てってこてってこ両足を大げさに上げつつ彼の元へと歩いていった。

「ふむ。あなたが一番ですか」

 突如能天気な感じで立候補した彼女に、彼はやや目を細めたように見えた。
 しかしそこは執事的な人である。一瞬でその怪訝な表情は消え失せ、彼はエクレアを実に紳士的な所作で部屋に案内した。

「どうぞこちらです」

「よろしくお願いします!」

 二人がそうしてドアの向こうへと消えていくと、ホールにまた元の静けさが戻った。
 
 さて、しばらく待ちか。暇だな。どうするか。面接ってどれぐらいかかるんだろな。普通の企業とかだったらまあ10分から20分くらいだと思うんだけど、はてさて。

 ホールの方に目を向けてみれば、集まった女性達は自分が一番にならなくてよかったという安堵からなのか、心なしかほっとしているように見えた。
 若い人もいれば、結構なお年寄りもいる。皆普通の人っぽく見えるが、掲示板の仕事に手を出す辺り、何か事情がある人達なんだろう。

 今はいくらか弛緩した表情を見せているが、眉間にシワが寄せられたままだったり、口が引き結ばれていたりと、誰もが何かしらの部分で余裕のなさをうかがわせる表情をしていた。

 うーん。緊張感あるね。こいつはかなり気合入れないと勝てなさそうだ。やっぱりエクレアにカンニングを頼んだのは正解だったかもしれん。

 と、そんなことを考えながら壁にもたれかかって人間観察すること15分程。
 いい加減腰が痛くなって来たので、行儀が悪いとは思いつつもそこにしゃがみこもうとした、まさにその時だった。

 少し遠くの方から、突然ドーンという何やら重々しい音が地響きと共に聞こえて来た。巨大な何かがどこかにぶつかったような音だ。

「な、何だぁ?」

 大砲でも撃ち込まれたのか? と周りを伺ってみたが、同じように混乱したような顔でおろおろとする女性達が目に入るだけで、別段異状はない。

 もしかして外か? いや、あの音の響き方からすると、中のようにも聞こえる。どっちだ? 外に逃げた方がいいのか? それともここにいた方が安全なのか?

 と、いろいろな可能性を頭の中でぐるぐる回していると、ふと、ホールの2階へ向かうための中央階段から誰かがが下りてくるのが目に入った。

「……エクレア?」

 力なく肩を落とし、一段一段とぼとぼと階段を下りてくるのは、間違いなく彼女だった。
 何だかすごい疲れ切った表情をしている。しかもなぜか髪がすごいボッサボサになってるし、服も全体的にホコリをかぶったみたいに汚れている。

「こりゃ一体……」

 ホールの女性達も彼女に気づいたのか、ざわざわと色めきだつ。
 俺も訳が分からず、そのボロボロになったエクレアを呆然と見つめるほかなかった。

 何これ。爆発コントでもさせられたの?
 



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「は~あ……」

 ゆっくりと移りゆく田園風景を眺めつつ、俺はため息を吐いた。
 横面が開け放たれた幌馬車、ならぬ幌竜車の中は、快適とは言い難かった。2匹のマンダが牽引しているせいか、揺れが少し強くてケツが痛い。

 しかし時折客車の中を優しく通り過ぎて行く、ほのかな草の香りの混じった風は気持ちよく、俺のささくれだった心を少しだけ癒やしてくれる。
 とは言えそれも、あくまでも少しだけだ。俺が先刻心に負った傷が、あまりにも深過ぎるのだ。

「んは~ぁ……」

 と、そうして今日何度目かの長いため息を吐いた時、少し離れたところからそれを非難するような声が上がった。

「ちょっと~。さっきから何なのさ~うっと~しいな~」

 視線を声のした方に向けると、むくりと起き上がる影があった。

「ため息つかれると幸せのマナが逃げてっちゃうんだからやめてよね~」

 そんなことを言いつつ自分も盛大にため息を吐いたのは、一人の女の子だった。

 滑らかそうな肌と、頬から顎にかけて少し丸みのある輪郭からすると、妹や女王様と同じで16、7歳程だろうか。ちゃんとクシを通せば女の子らしいキレイな髪になりそうだが、その鮮やかな水色のショートカットはところどころ端がハネていて、少し奔放な印象を受ける。

(ふむ、胸はちょっとばかし控えめかもしれないけど、それを補ってあまりあるプロポーションと可愛さ! デュフフ! 否めないですねぇ……)

 どちらかというとスレンダーな体型で、軽装服の半袖から伸びる手足も結構筋肉質だ。しかしあくまでも女の子らしさは失わない程度であり、思わずキモいデュフりが漏れてしまうくらいの好ましい塩梅である。

 見たところほとんど人間と変わらないように見えたが、耳の毛がふさふさしているので、おそらく彼女も亜人だ。
 その三角の耳と、大きなくりっとした瞳からして、全体的にちょっと猫っぽい。かわゆい。

(何とまあ、出会う女の子が皆可愛いなあ……眼福眼福)

 この世界の女の子って皆こんなに可愛いのかな? 気のせいか彼女もちょっと妹と言うか、女王様に似ている気がする。ううむ。異世界素晴らしい。
 と、そうして好きなアイドルのグラビアを眺めている感覚で、ついつい彼女を無遠慮に見つめてしまっていると。

「ねえちょっと聞いてる?」

 彼女はそのままずりずりと這いずるようにしてこちらに近づいてくると、いきなりずいと俺に顔を寄せた。

「ひえ!? な、何ですか?」
「何ですか? じゃないでしょ~。そんなに何度もため息しないでって言ってるの。こっちの気まで滅入っちゃうよ~。せっかく気持ちよく風に当たってたのにさ~」

 彼女はそう言いつつ、猫のようなしなやかな仕草でううんと伸びをする。

「まあでもちょうどいっか。この竜車おじいちゃんおばあちゃんしか乗ってなくて暇だったんだよね。どれどれ、何か悩みがあるならお姉さんが話を聞いてあげちゃうぞ~」

 と、あぐらをかいて完全に聞く体勢。そのまま尻歩きでじりじりと俺に寄る。

「あたしはエクレア。君の名前は?」

 まだ何も了承していないのに、もうすっかり話をする流れになってしまっている。見た目通りかなり奔放な性格のようである。
 どうしたもんかと思ったが、目的地に着くまでまだ少し時間がありそうなので、俺は彼女と少し話してみることにした。
 
「あ、ドルオタ……っす。よろしく、っす」

 距離感が分からずについつい敬語っぽく話してしまうと、彼女は笑いながらぱしぱしと俺の腕を叩いた。

「なになにそんなかしこまっちゃって~。お兄さんの方が年上っぽいし、普段どおり話してくれればいいよ。あたしもその方がめんどくさくなくていいしさ~」

「そ、そう?」

 とまどいながらもそう返すと、彼女はそれに満足そうにうんと頷いてくれた。

「で? で? そのドルオタ君は、一体何をそんなに憂いていたのかな? 失恋でもした? ホントのホントに暇だからさ~、なるべく込み入った話の方がいいな~」

 そんな勝手なことを言いつつ、彼女はまたまたずずいと俺に顔を寄せる。若いからなのかお国柄なのか、やたらとパーソナルスペースの狭い子である。

 妹や女王様とは違い、そうして近づいても彼女からは香水めいた匂いはしなかった。しかし代わりにお日様の匂いと言うか、よく乾かされた干し草のような匂いがした。何も混ざっていない生成りの、おそらく彼女本来の匂いだ。

 亜人の女の子だから、もしかしたらフェロモン的な何かも強く出ているかもしれない。
 このままだと血液がまずいところに集結すると感じた俺は、彼女から少し距離を取ろうと尻を浮かした。
 しかし……。

「おっとぉ~逃さないよ~!」
「うぶっ!?」

 それを察知した彼女が、俺の頭を思い切りヘッドロックする。
 必然、彼女のその匂いがさらに濃くなる。しかもそれに加え、柔らかい何かが俺の頬を圧迫する。

「ぎゃあああああああああやめてやめてやめて! ほんとにもうやばいからあああああ! 血液がやばいとこいくからああああああ!」

「んん~? やめて欲しいなら話してごらん~?」

 彼女がそうしてん? ん? と脇を強く締める度にぷにっとやわらかいものが頬をくすぐる。

「わ、分かった! 話す! 話すからはなしてンゴおおおおおおおおお!!」

 風呂場に突入してきた女王様といい、この世界の女の子は貞操観念が薄いのだろうか。俺みたいなプロ童貞には刺激が強いので、スキンシップはもう少し抑え目にして欲しいところです……。

 と、息も絶え絶えになりながら観念した俺は、彼女に促されるままに話し始めた。


※※※


「実は……」

 さすがに異世界召喚されて死の宣告を受けて……のくだりは伏せ、俺はついさっきギルドで自分に起こった不幸を彼女に伝えた。
 
 悪徳商人に騙され、まんまと激高い買い物をさせられたこと。
 吟遊詩人の戒言により、残った金の大半を歌の代金として支払うハメになったこと。
 脇が甘かったのは認めるけど、勉強代にしては高過ぎでしょうこれ……。話しているだけでも萎えて来る。
 
 しかし、そうして身振り手振りで感情豊かに悲劇の顛末を演じた俺に対し、彼女は同情の念を向けてはくれなかった。代わりに、
 
「……ぷっ」

 その一度の失笑をきっかけとし、彼女は盛大に吹き出した。

「あーーーーーはっはっはっは!」

 腹を抱え、あぐらのひざをパンパン叩きながらのマジ笑いである。
 
「ぶははははは! あーはっはっはっは!」

 あれれー? 俺的にはシェイクスピアばりの悲劇だと思うんだけどな? おかしいな?

「そ、そんなに面白かったかな……?」 

 内心首を傾げつつそう言ってみたが、彼女はなおも肩を小刻みに震わし、

「ふひっ、いや、面白過ぎでしょー。どんだけ隙だらけなのさ君!」

 と、興奮冷めやらぬ様子で腹を抱える。

「あ、だめ、抑えらんない! くふっ……あはははははは!! あーっはっはっは! ……ぁ痛あ!!」

 そうして何とか俺に返答しつつも、転げ回る勢いで笑い倒していたので近くにあったツボに頭を打つという体たらくである。アホの子かな?

 俺的に最高級の悲劇を笑われたのはちょっと心外だったが、どうにも憎めないキャラをしているのでそんなに腹も立たない。何だかちょっと不思議な感じの子だ。
 
「えっと……大丈夫?」

 恐る恐る声を掛けると、彼女は額をさすりながら大丈夫大丈夫と涙目で笑う。
 続いて俺が話しかけようとしたが、彼女に手で制される。
 すーはーと何度か深呼吸して息を整えると、彼女はよし、とその少し控えめな胸を張った。

「ふー……。うん、もう大丈夫。いやあ、早速いい感じに退屈しのぎになったよ~。ありがとね」

 そうして俺に向けられたのは、またしてもニカっとした無防備な眩しい笑顔だ。
 ううむ、可愛い。日本だとこういう感情丸出しの女の子ってなかなかいなかったからなあ。異世界で知り合いもいないし、このままお近づきになれればいいんだけど……。

 と、そんな邪なことを考えていると、彼女がふむうと腕を組みつつ言った。

「それで、お金がほとんどなくなっちゃった君は、何でこんなところにいるの? この竜車はマグナース邸に向かう竜車だよ? 何か用事でもあるの?」

「ああ、うん。それは……」

 問われて俺は、自分がこの竜車に乗ることになった経緯をまた話し始めた。

 俺はあの事件の後、落胆しつつも受付のお姉さんに励まされ、何とかすぐに立ち直ることができた。
 しかしそうしてせっかくやる気になっている俺に、そこでお姉さんから衝撃的な事実が告げられたのである。

「すみません。実は今、初級冒険者の方々に頼めるようなお仕事があんまりなくて……」

 異世界の冒険者の仕事と言えば魔物退治だ。ご多分に漏れず、やっぱりこの世界にも魔物はいるらしい。

 しかしお姉さんが言うには、今は女王様の魔法障壁のおかげで王都周辺に発生する魔物の数が減っており、それによって冒険者の仕事が激減している、とのことだった。

 そこそこ強い魔物はまだいるらしいのだが、弱い魔物は発生すらほとんどしないらしい。だから俺みたいな冒険者になりたてのやつには、薬草集めとかの雑用くらいしか仕事がない。
 ただその仕事も、俺と同じような境遇のやつが多いせいですぐに埋まってしまうらしい。

 こんなんどうもできませんやん? とやけくそ気味にやれやれと肩をすくめて見せると、彼女もそれに困ったように腕組みしつつうんうんと頷いてくれた。

「あーそうそう。ないんだよね、仕事。魔物がいなくなるのは純粋にいいことだとは思うけど、困ったもんだよね~」

「そうなんよ……もう無理よこんなん……」

 と、気疲れからか思わず慣れ親しんだ友達と話すような口調で返してしまうと、彼女がアハハと苦笑気味に笑う。

「でもそうは言っても君、わざわざ王都から出てマグナース領に来たってことは、アテがあって来たんでしょ? 何かおいしい話でもあったの?」

 彼女のその言葉に、今度は俺が苦笑しつつ返した。

「ん~……おいしい話かどうかは、実際に行ってみないとわかんないんだよなあ……」

「? どういうこと?」

 くりっと可愛く小首をかしげる彼女に促され、俺は再び経緯を話し始めた。

「何か、普通にギルドが斡旋してる仕事はないんだけど、それ以外にも一応仕事はあるらしくてさ」

 しかし俺が話の枕詞にそう言うと、彼女は眉をひそめた。

「もしかしてそれ、“掲示板”の仕事?」

「え? あーうん。そうそう。よく分かったね」

 答えると、彼女はさらに露骨にうぇ、と顔をしかめた。
 何でそんな顔するん? と思ったが、彼女がそれきり何も言わないので、仕方なく俺はそのまま説明を続けた。

 ギルドに仕事がないことを知った俺は、それでも諦められずに何かないかとギルド内を見て回った。
 すると何と、見つかったのである。仕事が。

 窓口の向かい側の壁に掲示板のようなものが設置されていて、そこに張り紙で仕事の募集がされていたのだ。

 紙の種類はバラバラ。書体も全く統一されていない。中には貼り出されてから時間が経ち過ぎたのか、黄ばんでボロボロになっているようなものもある。
 こりゃ期待できんかなと思ったが、その膨大な張り紙の中に一つ、目を引くものがあった。

 その張り紙だけは、俺でも何が書いてあるのかが分かったのである。つまり、魔鋼紙にマナ文字で依頼が書かれていたのだ。

『娘の導師募集。勤務日数など応相談。住み込みも可。ご興味のある方はこちらの紙を複写してお持ちください。即日で面接いたします。
                         レオナルド・マグナース』

 導師というものが何なのかは全く分からなかったが、現状俺ができそうなことが他にない。住み込み可という条件にも惹かれ、俺は今とりあえずダメ元でそのマグナース邸に向かっている……というのがこれまでの顛末となる。

 竜車の御者をしている人に聞いてみると、マグナースさんというのは王都のほど近くの領地を治めている貴族らしい。
 貴族なら金払いも悪くはないだろうし、うまく行けば当面の生活基盤ができる。俺としてはここは絶対に逃したくない案件なのだが……。

 しばらく俺の話を黙って聞いていたエクレア氏が、呆れたように目を細めつつこんなことを言った。

「君、バカ?」

「えっ」

 突然の罵倒に、俺は呆けた声を上げてしまった。
 美少女からの罵倒とか、ドMからしたらご褒美みたいなものなのかもしれないが、生憎俺にそういう趣味はない。たぶん、おそらく。あんまり。

 ただぼけっとした顔を返してしまうと、彼女は何やら不満そうに鼻をならした。

「そこまでいくと笑えないなあ。君、掲示板の仕事がどういうものか分かってないでしょ」

「何かまずいことでもあるの?」

 そう返すと、彼女は目をくわっと見開き、

「まずいもまずい! おおマズだよ!」

 とどんと床に両手をつき、また俺に顔を寄せた。近い。
 
「掲示板の仕事っていうのは、ギルドに登録できないような仕事が貼り出されてるんだよ! 報酬がしょぼ過ぎるとか、危険過ぎるとか、実際に指定された場所に行ってみたら盗賊の罠で、とか……! とにかく掲示板の依頼は曰く付きのものばっかりなんだよ!!」

 一気にそこまで言うと、最後に「そんなの冒険者の常識だよ!」と叫ぶように断言し、はあはあと肩を上下させるエクレア氏。
 よっぽどひどい目にでもあったのだろうか。目が少し血走っている。

「いやあ、そう言われてもなあ。現状できることがこれくらいしかなさそうだからさ。一応名前の知られてる貴族さんみたいだし、そんなに変なことにはならないと思うけど……」

 と、そこまで言ったところで、俺ははたと思いついた。

「てかさ、この竜車ってそのマグナース邸に向かうやつなんだけど、エクレアは何しに行くの? 俺はてっきり同じ張り紙を見て来たものだと思ってたんだけど、その様子だと違うよね?」

 そう聞いてみると、なぜか彼女はうっ、と気まずそうに目をそらしてトーンダウンする。

「や、あたしはその~……」

「?」

 頬をぽりぽりとかきながら、ちらちらとこちらを見やる。何か後ろめたいことでもあるのだろうか。
 何だか気になる反応なので、そのまましばらく彼女が話し出すのを待っていると、彼女は観念したように頭をがしがしかきつつ言った。

「木の実がね、なってるんだよ。あそこ」

「え? 木の実?」

「うん。それをね。その~……。ちょっと、拝借しようと思ってね」

「えっ」

 それって……。

「それってもしかしてどろぼ……むぐっ!」

 と、俺が核心を突く言葉を言おうとした瞬間、彼女が後ろから羽交い締めにするように俺の口を塞いだ。

「あっはっはっは。何を言っているのかなあドルオタ君。人聞きの悪いことを言っちゃあいけないよ」

「むぐっ! むぐぐぅ!?」

 ああああまたしても胸が! 今度は背中に!!
 しかも今度はさっきより顔が近い。それをいいことに、彼女は分かったかな? と俺の耳に温かい息をふっと吹きかける。

 ぞわぞわと全身に駆け巡るその刺激に、俺は即事全面降伏した。
 全力でこくこく頷くと、彼女はそこでようやくよおし、と俺を解放してくれた。

「まああたしの方はそんな感じ。状況的には君とおんなじかもね~。仕事がないから仕方なく情報屋みたいなことして何とか生きてるって感じだし」

「情報屋?」

 まだぞわぞわする耳をさすりながらそう返すと、彼女はそんな俺を楽しそうに見ながらうんと頷いた。

「まあ始めたばっかで真似事みたいなものだけどね。いろんなとこ回って話を聞いたり、その辺の人の噂話に聞き耳たてたりとか、そんなことくらいしかしてないし」

「ほほ~。じゃあエクレアもそこそこ苦労してるってことか。やっぱり結構厳しいんだなあ……」

 俺も面接受からなかったらどうしよう。他の仕事なんてたぶん見つからないだろうしなあ。
 そうして肩を落としていると、彼女がそこで何かを閃いたかのように目を見開いた。

「そうだ!」

 彼女はやにわにそばに置いてあった自分のカバンに手を伸ばすと、中をごそごそとやって何かを取り出した。

「ふっふっふ。この魔鋼紙を……」

「あ! 何を!?」

 そして彼女は俺のカバンにも手を入れ、

「へっへっへ~。こうして、こうじゃ!!」

 仕事の概要を写した俺の魔鋼紙を取り出すと、自分の魔鋼紙に重ね合わせてすりすり擦る。

「ふっふ~! 完成!!」

 と、彼女がそう言って両手を広げるとあら不思議! そこには同じ依頼が書かれた魔鋼紙が2枚も!

「──ってことで、あたしもその面接受けるからよろしく~!」

 えっ、さっき掲示板の仕事でめっちゃひどい目に遭ったって言うてましたのに?
 にんまりとした笑顔でそう言う彼女に、俺はまた呆然とした顔を向けてしまった。

 やっぱりこの子、アホの子なのかな? このまま一緒に居て大丈夫かしら……。

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