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(くまたそブログ)
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うっす。書いたっす。どちゃくそ暇なら読んでくれると嬉しいっす。うっす。








「ぶろろろろろろろ!」

 風圧で顔の肉がたるみ、ぼけっと口を開いていたところにその爆風が入り込んで、口の中をしこたま蹂躙される。

「まあ、聞けよ」

 しかしいつまで経ってもそれ以上の衝撃は来なくて、代わりに近くで発せられたその低い声に、俺は恐る恐る目を開いた。
 巨大な拳は変わらず目の前にあったが、そこにあるだけだった。

 どうやら俺は助かったらしい。しかし男の取るポーズを目にした今でも、俺は自分が何をされたのかをはっきりと断定できなかった。
 右拳を大きく前に突き出すというこのポーズを見るに、たぶん男は俺に『寸止めの正拳突き』を放ったのだろうという一つの予想が立ちはするのだが、そうなると問題が発生する。

 正拳突きだけであの馬鹿でかい音と爆風っておかしいだろ……。大砲とかそういうレベルのものやぞあんなん。
 本当に俺は無事なのかと自分の体をまさぐっていると、男はそんな俺を横目で見ながら、呆れた様子で言葉を続けた。

「今のこの国の状態をどうにかできるってこたぁ、そいつはもう歴史上の大人物達と遜色ないレベルの英雄ってこった。だが俺は、こいつがそんな大それたことをできるような人間には全く見えなくてなあ」

 目の前の男。ベアードと呼ばれた男は、爆風うんぬんに対しての周りからの非難轟々を一身に受けながらも、全く悪びれた様子も見せずに飄々と話す。

「そんなすごいやつなら、俺のこの程度の突きを黙って受ける訳がねえ。こいつを捕まえた時にしたってそうだぜ。俺のへったくそなムチにただ黙って捕まるとか、あり得ねえだろ」

 そしてベアードは彼女の方を強い視線で見つめると、言った。

「どういうことか説明してもらうぜ、ソフィーリア女王様よ」

 俺からしても、見るからに不遜。しかしベアードがそう言い終えると、彼に対して眉をひそめていた人間達もざわざわといろめき出した。
 「確かに……」だとか、「聞いていたのとはだいぶ違うな」だとか好き勝手言い始める。

(あわわわ……)

 旗色が悪い。圧倒的に。
 彼女が俺のことを国賓だと言ってくれた事実はあるものの、さすがにこの流れはまずい。

 今はおそらく、この国での俺の待遇が決まる分水嶺だ。ここで何かできなければ、裸一貫でどこかにぽいっと放り出される、なんてことも十分あり得る。
 しかしこの世界がどれぐらいの文明レベルを持っていて、この国が自分に何を求めているのかが分からない今、俺が何かを言ってもやぶへびになる可能性がある。到底口を挟める状況じゃあない。

「静まれ」
 
 そんな時、静かだがよく通る声が、謁見の間に響き渡った。
 絶対者の有無を言わさぬ迫力をもったその凛とした声に、あれ程ざわついていた場が一瞬にして静まり返る。
 ささいな物音すらも許さない。そんな空気を感じ取ったのか、周囲の人間は身じろぎ一つせずに、彼女の次の言葉を待つ。

 そうしてたっぷりと数十秒の間を取り、周囲がまた元の静寂さを取り戻した後。彼女はようやくその沈黙を破り、話し出した。

「相変わらずせっかちなやつじゃなベアードよ。それを今から説明しようとしておったところじゃろうが。少しは待たんか」
「だってよぉ。こいつ見るからに弱そうじゃねえか。こんなただの太っちょに、この国の瘴気を祓うなんて大仕事ができるとは、俺にはどうしても思えねえんだよなあ」

 結構な言われようだが、先程の寸止めパンチですっかり心を折られていた俺は、だた黙っておろおろと二人を見比べる。

「強き者がいれば解決するというような問題であれば、お前一人いれば事足りるであろうが。それにその理屈でいくと、未だこの問題が解決に至っていない責任はお前に行くということになるのではないか? この国で随一の実力を持つ“一人大隊”、ベアード・ベアーズよ」
「む……」

 痛いところを突かれたのか、ベアードが口ごもる。
 それからベアードは腰に手をやりながらうぐぐと唸り続けたが、結局最後までその口から反論が出てくることはなかった。
 
「まだ何か、言いたいことはあるか?」

 彼女がそう聞くと、男は不満そうにふんと鼻から息を吐いた。

「……ねえよ」

 すると彼女も、やれやれとばかりに深く息を吐く。

「ふむ。ではしばし大人しくしているがよい。これ以上客人を差し置いて話を進めるのは、失礼を通り越して侮辱に当たるであろう。皆もその辺りをよく考え、真に必要であるという時以外は控えておれ」

 男が少し悔しそうにサイドにはけていくと、場が一段と静まり返る。 
 ……マール君だけは俺を見ながらちょっともじもじしている。まだ俺をこねくり回したいのだろうか。ちょっと怖い。

「さて、客人」
「は、はい!」

 と、そこでふいに彼女の視線がこちらに向き、俺はとっさに雷にでも打たれたかのように姿勢を正してしまった。
 
「またしてもこちらの者が大変な失礼を働いてしまい、申し訳ない。あやつ、ベアードには後で厳しく言っておくので、どうか許して欲しい」

 そう言って彼女は目を閉じ、深々と頭を下げる。

「あ、いえ。寸止めでしたし全然大丈夫でしたので、お気になさらず……」

 一国の王に頭を下げられるというのは悪い気はしない。しかしさっき俺のために膝着いた時もちょっとどよめいたし、周囲の目がある時にあんまりへりくだった態度を取られるのも逆に困りものだ。どういう顔をしていたらいいのか分からなくなる。

 居心地の悪さからただひたすらに苦笑いを浮かべていると、顔が引きつり始めた頃にようやく彼女が頭を上げてくれた。

「本来であれば外交問題にすら発展し得る程の、悪辣きわまりない所業であったところ。客人の寛大なお言葉に、深く感謝する」

 と、もう一度深く頭を下げ終えたところで、彼女はさて、と手を打つ。

「そんな客人の寛大さに甘える形になって本当に申し訳ないのじゃが、そろそろ話を再開したい。よろしいか?」
「あ、もう、はい! よろしくお願いします!」

 思わずビッと軍隊の敬礼までをも繰り出してしまう俺に、彼女は少し苦笑めいた笑みをこぼす。
 しかしそれもほんの一瞬で、すぐにまた元の威厳ある女王様の表情へと戻る。

「ではまず、客人の名前を教えてもらえないだろうか。簡単な自己紹介などもしてくれると嬉しい」
「あ、はい! 喜んで!」

 と、元気のいい居酒屋のスタッフのような返事をしたはいいものの、周囲の視線が一斉にこちらを向き、俺は息を呑んだ。
 
 陰キャデブにこんな大舞台は重すぐる……。飲み会の乾杯の音頭ですらもまともにできないヘタレに何をやらすねんと。あまり俺の膀胱をなめない方がいい(お漏らし的な意味で)。

 しかしここできっちり話をしておかないと、後でどうなるか分からない怖さというのがどうしてもある。ただその辺に追放されるだけならまだしも、こういうファンタジー世界だと、最悪奴隷とかにされる可能性すらある訳で。
 俺は意を決し、震える膝をピシャリと叩いてから、大きく息を吸い込んだ。

「──とはおっしゃいましても、小生は自己紹介をする程大層な経歴は持っておりませぬ。その……せ、拙者はただのドルオタで、一介のデブに過ぎませぬゆえ……」
 
 乾ききって驚くくらい回らない舌を何とかフル活動させるが、肝心の内容がともなわない。
 この短いセンテンスで一人称すらも統一できないってやばいだろ俺……。いくら言葉が通じるとは言っても、ドルオタとかスラング的なものは通じる訳ないし。アホか俺は。

 こいつはまずいと思い、何とか軌道修正しようと考えを巡らせる。しかし少々もたつき過ぎたせいか、彼女から先にまずい相槌を打たれてしまった。

「……ふむ。ドルオタ・デヴと申すのか。なかなか珍しい名じゃの」
「えっ」

 いきなり何言ってらっしゃるのかしらこのお方……。
 違うよ! 全然違うよ! そこまで名が体を表しちゃったら親を恨むレベルですよ女王様!

「ではドルオタよ。まずここに来る前は何をしておったのかを聞いてもいいか。見たところ20半ばくらいの齢に見えるのじゃが、どういった仕事をしておった」

 慌てて訂正しようとしたが、時すでに遅し。彼女は俺からようやく名前を聞けた(?)のに満足したのか、喜々として話を再開してしまった。
 俺の名前がドルオタ・デヴに大決定した瞬間である。何でやねん! トホホ。

 そしてそれだけならまだしも、立て続けに始まったのがコレである。
 なぜに俺は、異世界に来てまでこんな面接まがいのことをやらされているのだろうか。そんなことを聞かれても、俺にはそれに答えられるだけの立派な経歴なんかないと先程申し上げたはずですが……。

 自分のなけなしの経歴を脳内でほじくり返してみたが、彼女にはっきりと提示できるものはやっぱりなかった。
 仕方なく俺は、正直に自分がやっていたことを彼らに話すことにした。

「仕事、と言うと少し大げさかもしれませんが、ワタクシここに来る前は、雑貨屋のようなものをやっておりました」
「雑貨屋?」
「そうです。色々な商品を、色々な人に売る。ただそれだけの仕事であります」

 コンビニと言う言葉が通じればそれで終わりなのだが、あの街並みを見る限りではさすがにそんなものはないだろうし、雑貨屋と言うのが一番近いだろうと思う。

「なるほど、商人か。しかし雑貨屋という言い方からすると、行商などで各地を周っていたという訳ではなく、店を構えていたというふうに聞こえるのじゃが、その辺りはどうか」
「あーはい。ちっちゃい箱みたいな店構えですけど、一応そうなりますかね」
 
 俺がそう言うと、彼女はほお、と息を漏らす。
 
「店持ちとは素晴らしいではないか。ちなみにその店は一つか? そちのその恰幅の良さをみると、二つ三つは持っているように感じられるのだが」
「あー……数はちょっと多過ぎて分からないですが。でも少なくとも、百や二百ではないです。ちょっと歩けばそこら辺にあるって感じでしたからねえ」

 何とはなしに俺がそう答えると、彼女の目が見開かれた。

「なんと! 豪商も豪商ではないか! その落ち着いた物腰といいただ者ではないだろうとは思っておったが、まさかそこまでとは……」

 あ、まずったなこれ。
 質問に単純に答えていたら、肝心な情報がうまく伝わっていない。

 ごめんなさい……。それは俺の店って訳じゃあないんです。体格は確かに(期せずして名前までも)某○ルネコに似てるかもしれないけど、俺はただの丁稚みたいなもんで、全然豪商とかじゃないです。ただのその辺の一般市民なんです……。
 
「素晴らしい。ぜひともその辣腕、我が国のためにふるって欲しい」
「あの」
「と言ってもドルオタ殿にはまだ何も説明していなかったな。これではやるもやらないもなかったな。失礼した」

 口をパクパクさせてアピールしてみたが、気付いてもらえず。彼女は俺の偽経歴に興奮しているのか、少し早口に続けた。

「先程少し話に出たが、一見平和に見える我がファルンレシア国は今、ある事態に直面し、危機に瀕している。瘴気が国土に迫り、今にもわらわ達を覆い尽くさんとしているのだ」

 その言葉が口から出た時、彼女は露骨に顔を曇らせた。

 瘴気。言葉としては日本にも存在するが、この世界ではどういった位置づけのものになるのか分からない。毒、みたいなものでいいんだろうか。
 率直にそう聞いてみると、彼女は然りと頷いた。

「厳密には少し違うかもしれないが、その認識でかまわない。現在我が国の周囲にはその瘴気が跋扈し、我が国民達を苦しめ始めている。わらわの放つ魔法障壁によって大半の町村は無事じゃが、それも完璧ではない。実際に放棄しなければならなくなったところもある。はっきり言って、事態は悪くなる一方じゃ」

 そこまで一気に言うと、彼女は少し玉座から身を乗り出す。

「そこでドルオタ殿には、この状況を打破する妙手を賜りたい」
「妙手……ですか」
「そうじゃ。そのためにわらわはお主をこちらに召喚したのじゃ。この世界の人間とは違った視点でものを見れるはずの、異世界の住人であるお主を、な」

 彼女はそう言って玉座に深く座り直し、瞑目する。
 
「勝手な願いだと言うのは重々承知している。全てを背負ってくれなどとはもちろん言わない。ただ我が愛すべき国民達を救うために、その一端を担ってはくれないだろうかと……これは、そういう話なのじゃ」

 彼女はゆっくりと目を開き、俺を真っ直ぐに見た。
 その蒼い瞳が湛える光は力強い。しかし同時に、大きく揺れてもいた。
 様々な感情が渦巻くその瞳に促され、俺はとまどいつつも口を開いた。

「……お役に立てるか分かりません。正直、自信がないです。この世界のこともよく分かりませんし」
「それはこれから知っていけばよい。お主がこの世界で生活する中で、最終的にこれなら国に貢献できそうだということを少しづつ探してもらえればよいのじゃ。わらわはそれが、わが愛すべき国民達を救う最短で最上の手段だと信じておる」

 最後の台詞を力強く述べた時、彼女の瞳はもう揺れてはいなかった。

「いかがだろうかドルオタ殿。引き受けてはくれまいか」
「……ええっと」

 そうは言ってもなあ……。

 向こうでただ自堕落なドルオタ生活を送って来た俺に、一体何ができると言うのか。話からするとどうも俺には腕力じゃなくて知力的なものを求めているっぽいが、俺の持っている現代知識なんてたかが知れてるしなあ。もっと頭いいやつ召喚すればよかったのに、なぜに俺なのか。

「あのお、ボク以外にその、召喚された人とかって、居ないんですかね」

 試しにそう聞いてみると、彼女はゆっくりと首を振った。

「召喚というものは膨大なマナを消費するのでな。おいそれとできるようなものではないのじゃ。残念ながら今現在、わらわが異世界から呼べた人間はお主一人じゃ」

 OH……。誰かに責任転嫁しようかと思ったけど、どうやらそれも無理らしい。
 なんてこった。ううむ、どうしたものか。

 とりあえずやるって言っとけば当面は大丈夫かもしれないけど、例えば二年三年何にも貢献できないような状態が続いたら、俺どうなるの? 干されるんじゃないの? 仮にそうなった場合、俺生きていける気が全くしないんですけど。だって日本でさえもほとんど親の仕送りで生きて来てた訳だし。テヘペロォッ!

(でもなあ……)

 断れるような空気じゃ、ないんだよなあ……。

(ぐぬう、だがそれなら何とかVIP待遇で迎えてはもらえないものか。君は働いてもいいし、働かなくてもいい。みたいなゆるい感じで。我は異世界スローライフは望むところだが、ガチガチの社畜生活みたいなのは性に合わぬ。何か起死回生の一言はないものか)

 と、そうしてない頭を必死に巡らせながら、うんうん唸っていた時だった。
 ふいに鼻に違和感を感じ、俺は何とはなしに右手でそこを拭った。

「……んぁ?」

 拭った親指を見てみると、そこには何やらべったりとした赤いものが。
 「あ、血だ」とそれを認識した瞬間、ぐにゃりと視界が揺れた。

「ドルオタ!?」

 回る。回る。世界が回る。
 何歩かの千鳥足の後、突然ふっと上下左右の概念がなくなる。俺は為す術なくバランスを崩し、そのまま後頭部をどこかに思い切り打ちつけた。

(ああ、やばい。何だこれ……)

 さっき喉を突かれた時と似たような症状だが、あの時よりも圧倒的にひどい。
 体の中が洗濯機でぶち回されているような感覚。滝の音みたいなバカでかい耳鳴りが、頭に響き渡ってやまない。 

 轟音の最中、かすかに彼女の慌ただしいヒールの音が聞こえた。しかしそれも次第に遠くなり、最後にはアンプの電源でも落ちたかのように、その轟音も突然ぶつりと止んだ。

 残ったのは、果てしない無間の闇。
 音も匂いも、景色も。何もかもがその瞬間、潰えて、消えた──。







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