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うっす。 何かもうできたっぽいから上げときます。よろしくおながいします。






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 羽衣のような、淡い水色のドレスだった。国の長を演出するには少し威圧に欠けるチョイスなんじゃないかと一瞬思ったが、俺はすぐにその考えを浅慮であったと投げ捨てた。

 すでに彼女の纏う空気は間違いなく王族のそれになっており、服装うんぬんで損なわれるようなものではないのは明白だった。むしろその可憐さのあるドレスが、彼女の持つ神秘性をより強く演出している。
 まるで妖精か何かの王だな……などと、そんな風にさえ思ってしまう程の貫禄だった。

「客人におかれては、急にこうした形でこんな場所に連れてこられ、大いに混乱していることと思う。まずはそれについて詫びたい。すまなかった」

 彼女の近くに控えている人物に促され、俺は仕方なくびくびくとしながら彼女との距離を詰める。
 
(あわわわ……)

 一歩歩く度に、周囲の重たい視線がまとわりつく。
 普段極力目立たない生活をしているからか、こうして多人数に注目されるだけで心拍数が上がってしまう。太り過ぎでできた胸の谷間に、冷や汗がゆっくりと伝っていく……。

「何、そう怯えなくともよい。少し話をしたいだけなのじゃ。遠い異世界から来たそちに、相談があってな」

 彼女は狼狽しきっている俺を見かねたのか、少し表情を和らげてそう言った。
 しかし俺は彼女の口から出て来たその言葉に不信感を覚え、より一層警戒感を強めてしまう。

(異世界……って言ったよな?)
 
 どういうことだろうか。道中何も言葉を交わしていないのに、彼女はなぜ俺が異世界から来たということを知っているのだろうか。

 この上下スウェットの服装を見れば、確かにそう想像することもできるのかもしれない。しかしそれならまず、ただ異文化圏の人間なのではないかと疑うのが筋じゃないだろうか。それをすっ飛ばして急に異世界の人間だなどと断定するのは、少し不自然に思える。
 
「……異世界、ですか?」

 このアウェイな状況の中、俺にしてはそこそこはっきりと喋れたなと思う。
 しかしその俺の渾身の返答に、彼女はなぜかけげんな顔をよこして見せる。
 ふむ、やはりか……と口元に手を当てつつ、彼女は言葉を続けた。

「すまぬな客人。よく聞こえなかったので、もう一度言ってもらえるか?」

 少し不思議に思ったが、逆らわないほうがいいと考え、俺はそれに従った。

「その、何でボクが異世界から来たと分かったんです? と申し上げたんですけど……」

 少しアレンジを加えてみたが、特に問題はないだろう。今度もはっきりと喋れたし。

 しかし彼女はそれでも難しい顔をして俺を見た。そして今度は、周囲の人間も同じように渋い顔を作っていた。
 え? 何? 俺何かやっちゃった?

「ふむ、やはり何を言っているのか分からんな」
「え?」
「マール、ちょっと彼をみてやってくれ」
 
 彼女がそう言うと、横から一人の人間がはいはい、と漫才の入りのように軽い感じで出て来る。
 少年なのか少女なのか、判断に困る出で立ちをしていた。ポンチョのような貫頭衣を羽織っていて体型が分かりにくく、さらに声も変声期のようなハスキー声。ふわふわな金髪と白い肌は女の子っぽかったが、丈はショートボブくらいの長さだし、やっぱりどちらとも取れるので断定できない。

 そのマールと呼ばれた人物は俺の前へと来ると、「ふむう……ほほお……」とやたらと近い距離で俺の体を興味深そうに眺め回す。
 そのポンチョが揺れる度に、風に乗ってちょっといい匂いが漂って来て、少し複雑な気分になった。

 う~ん。アリ、ですね。このレベルになると、もう男だろうが女だろうが関係ないですね。最近マンガやラノベにも当たり前のようにいるしねこういう子。しかしリアルにも居るとは思わなかったなあ。おいちゃん感服したよ。負け申した!

 その新しい刺激につい俺は鼻息を荒くしてしまったが、目の前の彼女だか彼だかの方も、かなり興奮した様子で俺を舐め回すように見る。
 デブが珍しいのかな? ハハッ、ワロス!

「なるほどなるほど。こいつは興味深いですね~」
「何とかなりそうか?」

 顎に手を当て、なおもじろじろと俺を見続けるマールに、玉座の彼女が確認を取る。
 するとマールはハッとしたかのように顔を上げ、自分の頭を撫でた。

「あ、すいません。黒髪が珍しかったものですから、ついつい観察しちゃいました」

 しれっとそう言ってのけるマール。
 その言葉に、彼女は呆れたように目頭を押さえた。 

「……何事にも研究熱心なのは結構なことじゃが、今は国賓とも言うべき客人をお迎えしている最中なのだ。あまり冗長なことをやっていては失礼に当たるであろう」

 女王のそれは厳し過ぎるということはないが、きっちりと部下に釘をさす程度の毅然としたものではあった。
 しかしマールはそういったことに鈍いのか、はたまた怒られ慣れているのかは分からないが、あははと軽く笑ってまた頭を撫でるのみで済ませてしまう。

「いや~すみません。確かにそうですよね。失礼いたしました」

 見てるこちらからするとドキドキするやり取りなのだが、よくあることなのか、女王様も別段これ以上咎めるようなことはしなかった。
 もしかしたら仲良いのかしら。年も近そうだし。

「ではでは、失礼の上塗りで申し訳ないのですが」
「んうぇ?」

 と、マールはふいに俺の体をベタベタと触り出す。
 肩から始まり、腰、ふともも、足首。つま先に至るまで、何かを確認するかのようにパシパシと叩いたり軽く揉んだりする。

「あ、ゃだ……そこは……」
「ふむふむ。ほほお……これはこれは」

 男だか女だか分からないけど、見た目はかなり可愛らしい。そんな人間に、体中をまさぐられている……。
 やばい、マジで何かに目覚めそうだ。このままでは俺のピー! がピーしてピー! になってしまう! こんなところでそんなことになったら、不敬罪で即刻打ち首になってしまいかねん! 何とか離れてもらわなくては!

「んん~なるほどですねえ」

 そう思って精一杯身を捩って抵抗したのだが、マールは離れてはくれなかった。それどころか今度は俺の頭を掴んで、鼻がぶつかりそうな距離で俺をまじまじと見つめる。
 ……近くない? どう考えても近過ぎない? ちょっと顔動かしたらキスできちゃうんですけど大丈夫? 俺はもう全然やぶさかではないんですが、もしかしてOKってことなの? 
 
 さすがにここまでお膳立てされれば、キモデブ童貞オタでも行かざるを得ないだろう。 
 と、思わず口をにゅうっと伸ばしてしまいそうになった時、

「やっぱりマナが滞ってますね~。喋れないのはお互いに困りますし、ちょっと失礼」
「え、何を……ってコポォwwwwwwwww」

 マールは何を思ったか、突如俺の喉を二本指で思い切り突いた。
 激痛が体中を走り抜け、たまらず俺はその場に膝から崩れ落ちる。

「げぇっほ! ごっほ! ぐひゅ、ごっほぉ!」

 息が、息ができん!
 しかもそのあまりの痛みのせいか、頭もぐるぐる回って気持ちが悪い。冷や汗が滝のように溢れ出して、頬を伝って床にぽとりぽとりと落ちていく……。
 ちょっとキスしようとしただけなのにこの仕打ちである。やはり世界はキモオタに厳しい。あまりにむごい。

「……おいマール。それはやむなく、必要だからしたことなのじゃろうな? 今しがたその方は国賓だと言ったはずじゃが」

 女王様がそう苦言を呈してくれたが、マールは全く怯むこともなく高らかに言う。

「もちろんです陛下! 陛下が時間がないとおっしゃったものですから、ちょっとした荒療治を施しました!」

 いやあ、こいつは治療と言うより傷害事件だぜマールさんとやら。
 痛みは少し落ち着いたが、頭のぐるぐるが体中にまで広がってなかなか取れない。腹が下したみたいにぎゅるぎゅる鳴ってる。耳の奥もくわんくわんいってる。
 何なんこれ。俺死ぬん?

「時間がない、というのはいささか曲解じゃな……。一体客人に何をした。場合によっては客人に再び詫びなければならぬ。説明せよ」   

 彼女がそう言うと、マールはかしこまりました! とまた元気よく答える。
 なるほどね。天然元気っ子系ってわけだね。大変結構だしどちらかというと好みだけど、今はその元気が耳にキンキン響くので勘弁して欲しい。リアルに死ぬ。

 しかしマールは、そんな俺には全く気付いていないかのように説明を始めてしまった。やめえや。

「稀有な症例ではありますが、難しいことは何もありません。彼の話す言葉が我々に理解できないのは、彼の体内のマナの流れが滞っているせいで、声にマナが載せられなくなっているのが原因です。ですのでボクは、それが正常に流れるように体内で彼のマナをかくはんいたしました。少し荒療治ではありましたが、お急ぎということでしたので」

 ふむ、と彼女が頷く気配がしたが、俺は全然納得なんてできなかった。
 度々出て来るマナという言葉は聞いたことはあるものの、実際のところはよく分からない。人体に備わっている見えないエネルギー、みたいな感じでいいのだろうか。
 そもそもかくはんって何よ。俺何されたん? そんな格ゲーのフレーム単位の攻防みたいなことをやった覚えは全然全くないんだが?

 ぐぎぎ、と何とか首だけを彼女達に向けると、ちょうど二人の会話が再開された。

「その方法を取らずに彼のそれを治すことは不可能なのか?」
「いえ、そのようなことは。外界のマナにしばらく触れていれば、自然と回復するものです。しかしその場合は、治すのに3日から1週間程度かかります」

 彼女はマールのその言葉を聞くと、なるほどな、とおもむろに立ち上がった。

「確かにそれ程の間を開けるのは客人のためにもならんな。しかし無理に連れてこられた上にこの仕打ちでは、これから対話する気持ちになどなれまい」

 カツッカツッと硬質な音をさせながら、彼女が近づいて来る。
 何かと思って見てみれば、新雪のようにキラキラとした、彼女の細い足によく似合う真っ白なヒールの音だった。

「ふむ。マナ感知に長けていないわらわにも分かる程マナが荒れておる。まるで激流じゃな」

 ふわりと、彼女の手が俺の頭に優しく触れた。

(あっ……)

 その瞬間、周りから少々のどよめきが起こった気がしたが、俺はその一瞬に舞い降りた煌めきに目を奪われ、それどころではなかった。
 彼女が俺の頭に振れるためにしゃがみこんだ瞬間を、俺は見逃さなかったのだ。

 パンチラ、いただきました。しかもただのパンチラじゃなく、圧倒的高級でロイヤルな感じの可愛くてシャープなやつ。
 マジでほんの一瞬だったけど、やっぱり本当にいいもんですね。こういう知性あふれる感じの子のは興奮度がダンチ。頭に血液が行ったせいか、心なしか気持ち悪いのも取れてきた気がする。

「どうじゃ、少しは楽になったか」
「えっ」

 パンツを見て回復したのがバレたのかとドキッとしたが、全然違った。

「おぬしの中を流れるマナを幾分調整してみた。大分よくなったと思うが、どうじゃ」
「あ、えっと……」

 言われて俺は、その場であぐらをかきつつ自分の体調を確かめる。
 まだ少し頭の遠くの方がぼんやりとしている感覚はあるが、くらくらと世界が回るかのような気持ち悪さはもうほとんどない。
 何だ。パンチラのおかげじゃなかったのね。童貞をこじらせ過ぎてついに異世界でそういう能力が開花したのかと思ったんだけど。ちょっと残念。

「あ、大丈夫、みたいです」 

 そう答えると、彼女はふっと笑って立ち上がった。

「そうか。では、話の続きをするとしよう。致し方のないこととは言え、度々失礼を重ねてしまってすまない。以後はこういったことになりそうな時は、先にきちんと客人の許可を得るようにしよう。だから彼のやったことも、今回だけはどうか許してやってほしい」

 彼女が神妙な面持ちでそう言うと、そばで控えていたその彼が慌てて腰を折る。
 
「す、すみません、でした!」
「あ、もう全然大丈夫なんで。お気になさらず」

 言いながら俺は、ちょっと心の中でしょんぼりとしていた。
 まさかとは思ってたけど、やっぱり男の子かあ……。いやまあ、いいんだけどね。このレベルはもうリアル男の娘と言っていいだろうし、全然イケるイケる。ありとあらゆるエロゲを嗜んできた俺をあまりなめない方がいい。完全に余裕。

 と、そうしてマール君を視姦しながらデュフっていると、いつの間にやらまた玉座に座った彼女が言った。

「さて、客人。お互いに意思疎通がはかれるようになったところで、改めて話をしよう」
「あ、はい。よろしくおねがいします。……ってあれ?」

 アホな俺は、そこでようやく気が付いた。
 会話ができている。俺の言葉が、通じている。

 何かマナがどうとか色々言っててよく分からなかったけど、話の流れ的にマール君が俺を喋れるようにしてくれた……ってことなんだろうなたぶん。いやはや何とも手荒い処置ではあったけれども、正直助かった。

 何も喋れないんじゃ尋問とかされた時くっそ不利だし、交渉なんかも全くできないからね。マジで君は俺に未来をくれたようなもんだよホント。グッジョブマール君!

 と、心の中で密かに彼に親指を立てていると、彼女が言った。

「言葉が通じるのが不思議か? 興味があるのなら、その辺りの話からしてもいいが」
「あ、いえ。本題があるならまずはそちらからで」

 興味はあるけどね。でも今はとにかく、何がどうなって俺がここにいるのかを知っておきたい。俺が異世界から来たってことを知っているんなら、たぶんそれも含めての話をしてくれるだろうし。

「そうか。それならまずは……」

 そう言って、彼女が足を組んだ時だった。

「ちょっと待て」

 突然後ろから、太くて低い声が飛んで来た。
 振り返るとそこには、フードを目深に被った一人の大男が立っていた。

(あ……俺をここに運んで来た人、だよな)

 他の貴族然とした格好の人間達とは違い、その簡素な服装のせいでひどく周りから浮いている。しかし彼らと同じくきっちりとサイドに並んでいるところを見ると、彼もまたこの国で重要なポストを持つ要人であるのは間違いない。
 男はそこから一歩歩み出ると、少し不機嫌な様子で言った。

「ソフィー。俺はお前がこの国を救う人間を連れて来るっつうから、わざわざ今日付き合ったんだがな。こりゃあちょっとねえんじゃねえかおいぃ」

 言いながらバサリとフードを取った男の顔を見て、俺はぎょっとして固まってしまった。
 そこにあったのは、人間の顔ではなかった。
 いや、そのような形をしてはいた。しかしその顔には肌らしいところが見当たらず、それと見られる場所は一面茶色い毛で覆われている。

(亜人、もしくは獣人……ってやつか。いよいよファンタジーじみてきたな……)

 黒い鼻に、ω型の口。何の獣人だろうか。
 口の形からすると猫だが、全体を見るとそれとはちょっと違う気がする。やたらと派手な黄色のボンボン帽子から、丸っぽい耳がぴろっと出ている。
 何やこれ。狸か何かか?

「貴様ベアード! 陛下の御前であるぞ! 不敬であろう!」

 そこでまた割り込んで来た怒鳴り声により、俺ははたと思いついて手を打った。
 なるほど、熊ね。確かにそれっぽいわ。でもさすがにちと安直な名前なんじゃないですかねえ。て言うか日本語だけじゃなくて英語にも対応してるとか、ここほんとに異世界なんですかね。もしかして壮大なドッキリなんじゃないのこれw

 と、そんなふうにちょっと訳知り顔で男を見ていた俺に、しかし次の瞬間天罰が下った。

(あれ?)

 突然男の姿が消えた。そう思った時には、もうすでに目の前に巨大な拳があった。
 何かが破裂するような音と凄まじい爆風が俺を襲い、頭の中に今までの記憶が走馬灯のように駆け巡る。

 あ、これは死んだな。
 と、その瞬間俺は全てを諦め、ただ一言、そう思った。

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