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(くまたそブログ)
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うっす。どちゃくそ暇ならry







「アーーーーーーッス!?」
「わーーーー!!」

 突然の絶叫に絶叫が重なり、びっくりして体がびくんと跳ねた。
 
「えっ?」

 気付くと俺は、なぜかベッドの上にいた。

「どこやここ……」

 やたらと奥行きのあるその部屋の壁にピントを合わせると、少しめまいがした。
 まだしょぼしょぼする目を揉み込みながら周りを見渡してみると、そこが20畳はありそうなだだっ広い部屋であることがすぐに分かった。

(何かすごい豪華な部屋だな……)

 床には上品な色の赤絨毯。上を見れば、ガラスのような材質でできた見事な飾り照明が淡く光っている。
 壁に掛けられた大きな絵画。ちょっとした棚やテーブル。そこに存在する調度品は、その選択に一切の手抜きがみられなかった。どれもこれもがキラキラと輝いている。

 と、そうして周囲を流し見していて、俺の視線はある地点でピタリと止まった。
 すぐそばに何やら俺を見ながら固まっている、ひと目でそれと分かるステレオタイプなメイドさんがいた。
 ショートボブの金髪に、白を基調としたクラシカルなメイド服がよく似合っている。

「あ、どうも……でゅふ」

 くぅ~お近づきになりてぇ~、などと思いながらぺこりと頭を下げたところで、ようやくメイドさんは再起動した。

「び、びっくりした~。急に起き上がるんだもの」
「あ、す、すいやせん……ふひっ」

 ほう、と息を吐きつつ胸をなでおろすメイドさん。そんなちょっとした仕草だけでもとても可愛らしい。
 何だかちょっとくだけた感じのメイドさんだが、そこがまたよい。

「あ、あの~。そんなに見られると恥ずかしいんだけど」

 しげしげとその綺麗な顔を堪能していたら、腕をもじもじとさせながら彼女が言う。

「ふむぅ、いやお構いなく」
「え、ええ? いや君がよくてもボクが構うんだけど……」

 圧倒的デブが嫌がる美少女を無視して視姦……普通ならいつ通報されてもおかしくない絵面である。
 当然この後は殴られるか突き飛ばされるかで終わるだろう。そう覚悟していた俺に、しかし彼女は全く違う反応を返してきた。

「……ふふっ」
「ぬっ?」

 彼女は俺を見ながら、急にこらえきれないといった感じで笑い出したのである。

「あはははは! その顔! 何でそんな一生懸命なのさ! 変なのー!」

 何の遠慮もなし。あけすけに笑うその彼女の顔に、俺はさらに釘付けになった。
 だって普通女の子って、もっと気取った感じで笑うじゃん。こんなに思いっきり笑った顔見せてくれるのってなかなかないから、タツキ(俺の名前)ついつい見入っちゃう……。

 そうして腹を抱えて笑い続ける彼女を見つめ続けて一分程。
 彼女はようやくその笑いを収め、目に溜まった涙をぬぐいつつ言った。

「ボクがやり過ぎちゃったのかと思ってちょっと心配だったんだけど、その調子じゃ大丈夫そうだね。よかったー」
 
 と、ほのかにニコリと彼女が笑ったその時だった。
 その優しい笑顔にキュンとしたのも束の間、俺はなぜかその顔に違和感を覚えた。

(……んん?)

 どうも俺は、この顔を見たことがあるような気がする。それもごく最近。ごく身近で。

(ん~~~~!?)

 そう思った瞬間、彼女のその声と顔とが、俺の頭の中である人物に符号する。
 マジかよ。嘘だろ。
 わなわなと震えながら、俺は失礼にも思い切り彼に指を差してしまった。

「ま、まさか……マール君、さん!?」

 かろうじて敬称をつけることに成功したが、俺の口はそのままあんぐりと開いたままになってしまった。
 間違いない。この顔はさっき俺の喉を思い切り突いた、あのマール君である。

 俺のそれに、彼は恥ずかしそうに頬をぽりぽりとかく。

「あれ? もしかして気付いてなかったの? いや~ソフィーリア様ってばどんどんコレ上手くなるなあ」

 少年とも少女とも取れるその仕草がまた可愛いらしくて、俺の胸がまたもトゥンクと高鳴ってしまう。

 元々素材が良過ぎるところに、彼のその中性的な魅力を高める完璧なまでのナチュラルメイクが施されていた。濃厚なドルオタである俺をもってしても、その完成度に口を挟む余地が一切ない。
 いやマジ、何そのピンクのきらきらした唇。断然正解過ぎてひれ伏してからの土下寝求愛ですわこんなん……。

「え、マール氏。そういう趣味がおありで……?」

 またちょっと複雑な気持ちになりながらもそう聞くと、彼は慌てて首を振った。

「ち、違うよ~! これはさっき君にした処置がちょっと雑だったってことで、罰としてソフィーリア様にやらされてるだけだから!」
「いやしかしそれにしては……。その完成度は一朝一夕でできるものではないと思われるのでつが」
  
 そう突っ込んでみると、彼は「あ~」と少し言い淀み、苦笑いする。

「それは、最近のソフィーリア様の化粧技術の向上がすごくてさ。最初は城の人達に笑われるくらいだったんだけどねえ。ソフィーリア様が綺麗になるぶんには全然いいと思うんだけど、こんなふうに使われちゃうと、ちょっと複雑だよね……」

 あははと恥ずかしそうに笑うマール君に、しかし俺は追撃する。

「いや、それもそうなんですけど、何気ない仕草とかの細かい動きなんかもほぼ完璧に女の子のそれなのは、一体どういうことなんです?」

 俺の目はごまかせん。これはほとんどプロの仕事だ。
 俺のそれに、彼はなぜかまたうっと言葉に詰まる。しかし俺がことのほか真剣な顔をしているのに気圧されたのか、今度も素直に答えてくれた。

「そ、それは陛下が……ソフィーリア様が毎回演技指導に厳しくて、しっかりメイドっぽくしてないと罰が終わらないから仕方なく……」

 がっくりと肩を落とし、ため息をつくマール君。そのため息は終電までの残業が確定したサラリーマンのように感情がこもっていて、こっちまでちょっとやるせなくなってしまう。

「しかもちゃんとやってたかどうかをその時お世話した人にしっかり採点させるんだ。その点数が低いといつまで経っても終わらないし、最後にはソフィーリア様に直接採点されるという地獄の奉仕活動が始まるんだよ……。だから仕方なく、ね……」

 力なくそばにあったイスに腰掛け、マール君は試合で燃え尽きたボクサーのようにそこにうなだれた。

 やっぱり相当絞られているらしい。そりゃそうだ。じゃなきゃこんなふうにはならん。ただイスに座るにしてもきっちりちゃんと足畳んでるし、どんだけ仕込まれたらこうなるんだよ。パねえな女王様。

「そ、そうなんスねえ。そいつは大変スね……」

 これ以上はマール君が本当に白い灰になってしまう。そう思った俺は、話題を無理やり別方向へと変えた。

「あ、あ~。そんなことより、ここは一体どこなんです? 見たところめちゃくちゃ高そうな宿って感じなんですけども」
 
 そう聞くと、彼はゆっくりと顔を上げつつ言った。

「ここは城のお客さん用の部屋だよ。君が急に倒れたから慌てて運んで来てもらったんだけど、覚えてない?」
「え? 倒れた? 俺が?」
「やっぱり覚えてないよね。まあひどいマナ酔いだったから仕方ないか」

 マナ酔い? 聞き慣れない言葉に思わずそのまま返すと、マール君がうんと頷く。

「君の喉をボクが刺激したら会話できるようになった、っていう場面は覚えてる?」
「ああ、はい。それは何となく」
「つまりはその副作用さ。君の中で滞ってたマナをボクが強制的に動かしたから、それに慣れてない体が拒否反応を起こしちゃったってことだね。まあ簡単に言うと、体の中のマナが暴れ回って心身に悪影響が出ちゃった状態、ってところかな」
「ははぁ。なるほど、副作用ですか」

 マナというものが相変わらずよく分からないが、話し方からすると、そう大したものじゃなさそうだ。実際今は寝起きでちょっと目がかすんでるくらいで、体調の悪さなんかはほとんど感じない。

「じゃあまあ大したものじゃないってことですね。とりあえずはよかったです」

 ちょっと安心しながらそう相槌を打った俺に、しかし彼は大きく首を振った。

「いやいや、結構危なかったよ。だからこそボクがこうして直接君を見てたんだもの」
「えっ、そうなんです?」
「そうだよ~。だってマナ酔いって、要するに体中のマナの統制がきかなくなっちゃった状態のことだからね。あのまま放置してたら、たぶん君、今頃廃人になっちゃってるよ?」
「ええ!?」

 なにそれ怖い!
 字面的には乗り物酔いと大差ない感じに思えるのに、予後が雲泥の差である。

「も、もう大丈夫なんですよね? ね?」
「もちろんさ。それはこの魔導国家ファルンレシアが誇る随一の宮廷魔術師、マール・ラフィーレが保証するよ!」

 情けなくもその細腕にすがりついた俺に、彼はそう言って胸を張る。

「マ、マール氏……」

 その頼もしさに、思わず涙まで出そうになる。
 同性だからこそなのか、こうしてデブオタの俺がすがりついても嫌な顔一つもしない。
 全く! これだから男の娘ってやつは最高だぜ!

「とは言ってもそこそこ体は消耗してると思うけど。まだどこか変だなーってとことかはある?」
「いやあ、そういうところは別にないですねえ。体調もすこぶる良好だし……」
 
 と、体のいろんなところを確認するように触ってみて、俺は顔をしかめてしまった。
 くっそべたべたする……。普段も汗っかきだが、今は特にひどい。ラードを体中に塗りたくられたみたいに、ドロドロのヌメヌメである。

「何か体を拭くものとかってありませんかね? ちょっと汗かいちゃったみたいで気持ち悪くて」

 そう言ってみると、彼が「ああ!」と手を叩く。

「気がつかなくてごめんね。すぐに用意するからちょっと待ってて」
「へへっ、すいやせん。恩に着やす」

 とてとてとドアの方に向かうマール君。その走り方は少しおぼつかなく、アキバのドジっ子メイドを彷彿とさせた。
 謁見の間ではこんな感じではなかったし、よもやこの走り方も“指導”の成果なのだろうか。だとしたらやばい。主に女王様の趣味的な意味で。そんなんめっちゃサブカル女子ですやん……w

 こいつは女王様と一度お話し合いをするべきですねえ。そんなことを思いながら彼のその小さな尻、もとい背中をエビス顔で見送っていると、ふとそのスカートの裾がひるがえった。

「あ、そうだ」

 突然振り返ったマール君は、そう言って女子っぽく顔の前で両手を合わせる。

「体調が悪くないんだったら、体を拭くよりもお風呂に入っちゃった方がいいんじゃないかな。ちょうど今掃除が終わって、いつでも入れる状態になってるから」

 え? 今何て?

「……お風呂?」

 声が掠れ、呟きとも取れない俺のそれを、彼はしかししっかりと拾い上げて薄く笑う。

「うん、お風呂。結構おっきなお風呂だから気持ちいいよ」

 バ、バカな……最下層市民であるはずの俺の身に、こんな僥倖が舞い降りるだなんて……。
 まさかのお風呂イベント降臨でわなわなと震える俺に、彼は続けて問うた。

「どうする? そっちにする?」

 この機会を逃したら、もはや俺の人生でこれと同等の幸福が訪れることはないだろう。余すことなくその全てを享受し、後の人生の励みにすることとしよう。相手が男だとかそんなのは、もはやどうでもええ。

 おそらく俺史上最もキモい笑顔でニチャりつつ、俺は彼に向かって大きく頷いた。

「ぜひ、お願いします」

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