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『兵器・鏡花水月』


自分たちの周りにある多くの地面の水たまり。よく見るとそこから、男の両手のひらに水が集中していっている。そして次第にそれは大きくなっていき、やがて子供一人分くらいは入りそうな程の水球になる。

「私の兵器。鏡花水月の能力は、確かに概ね貴様がさっき言った通りの能力だ。だが……」
男が腕を交差させる。すると、二つあった水球が一つの大きなそれになる。
「果たしてどうかな。貴様は私の事をシステマーと揶揄したが、あの仕掛けがバレた所で、私は別段困らないのだよ」

男が右腕を掲げると、水球がふわふわと浮かびながらそれに着いて行く。
彼は確信した。やはりこの水球を自由に操作出来るというのが、男の能力の一つなのだ。

(鏡花水月……)

その様子と、男の兵器名を聞いた瞬間、彼の頭に何かが去来する。
何か、引っかかる。聞いた事があるような気がする。
彼は記憶の糸を手繰り寄せようとするが、この状況ではさすがにゆっくりと考えている時間は無さそうだった。

男が右腕を、まるでヌンチャクでも持っているかのように動かすと、水球が物凄い速さで男の周りを衛星のようにぶんぶんと回る。かなり自由自在に動かせるようだ。

「この大きさの水球にとりつかれれば、さすがにひとたまりもあるまい。私の能力の範囲外に出る事は格段に難しくなる」
そうしてまたも例のごとく、男は低い声で笑う。
「くっく……システマーなどと、よくも言ってくれたものだ」
男のそのセリフに、今度は彼も嘲笑混じりに返す。
「へー、違うのかよ。ぜひ何処らへんがそうなのか、教えてもらいたいもんだな」
すると、
「ああ、いいとも」と、その言葉を待っていたとばかりに、男はニヤリと口角を上げた。「では、貴様の身をもってじっくりと教えてやる!」

来る。そう思って彼が身を翻した瞬間に、もうあの水球は彼の横をかすめていった。

「素晴らしい!しかしその反応をいつまで続けられるかな!!」

男のふいうちから、突如として戦いの幕は切って落とされた。
これからは何の小細工もなし。正真正銘、真剣勝負の始まりである。

男の操る水球は縦横無尽に空中を駆け巡り、何度も敵を取り込もうと彼に襲いかかった。
それを彼は、紙一重の所でかわし続けた。もしこの水球に体全体を覆われてしまうと、彼とて全くの自由という訳では無くなってしまう。普段人はあまり意識をしないが、水の抵抗は思ったよりも大きいものなのである。

攻撃に転じる隙はゼロでは無かったが、それが分かっているから、彼も慎重にならざるを得なかった。これが男の全ての能力とも限らないのだ。決定的な隙が無い限り、手を出すべきではない。彼はそう考えていた。
何か糸口になるものは無いか。そう考え続ける彼に、男は嘲笑を向けた。

「……くっく。大立ち回りのせいで、すっかり泥だらけだな」
走り回って泥水にまみれる彼とは対照的に、男はまるでオーケストラの指揮でも取るかのような優雅な挙動である。
「知ってるか。東の国には舞踊という音楽と演劇をまぜたような伝統芸能があるらしいが、そこではわざと泥田を舞台に作って立ち回りを演じる事を、泥仕合と言うのだそうだ。きっと今のお前のように、素晴らしい舞いを見せてくれるのだろうな」

男の皮肉に、彼の耳がピンと立つ。

彼の動きが幾分硬くなった。ずっと最小限の動きでかわしていたのに、少し大きくかわすようになる。
さすがの彼も、この物言いには頭にきたか。

(……泥)

男の挑発に彼は眉を寄せて不機嫌なふりをしていたが、実際には焦りや怒りの感情は無かった。
彼はあえてそう見えるようにしていた。そうした方が、気取られずにすむ。
男の言葉で、ある考えが彼には浮かんでいたのだ。

彼はその自身の中で新たに組み立てた仮説を確認するため、そのまま殊更大きな動きで水球を避ける事を続けた。男の周りを円を描くようにして、派手に動き回った。そのせいで彼らの周りの地面は、もうすでにぐしゃぐしゃである。
「……虎視眈々だな。隙あらば私を狙おうとしているようだが、うまくいくかな」
そう思わせるのが彼の作戦の一つだった。実際の彼の狙いは、他にあった。

彼は水球を避ける際に、地面から泥を取って手に握りこんでいた。仮にそれを男に投げつけて水球のコントロールの邪魔をすれば、幾分隙はできるかもしれない。何も出来ずにただ彼のスタミナが減っていくというジリ貧状態は、少なくとも脱する事ができるかもしれなかった。

しかしそれは、男の今のセリフからして当然警戒されている。うまくいくとは考えにくい状況と言わざるを得なかった。
ではそんな状況をあえて作って、一体彼はどうしたか。
彼はその持っていた泥を、なぜか男にではなく、自身にまとわりつく水球に向かって投げつけたのだった。

「だー!うざってえ!!」

と、まるでかんしゃくをおこした子供のようだが、これは彼の演技だった。投げた瞬間の彼の目は鋭く、何かを見定めるかのようだった。

「!ばかめ!無駄だ!」

しかし男は巧みに水球を操り、彼のその一種不可解な攻撃さえもかわしてしまう。ほとんど手足の延長線のような器用さだった。彼は自身の筋力により威力の増した泥で水球の破壊を目論んだようだが、この様子では水球に向けての攻撃はまず無理だと考えるのが妥当だろう。現状打破への道にはなりそうに無かった。

(……ふむ)

ところが彼は、口元に隠しきれない笑みを湛えるのであった。
彼が見たかったのは、まさに今男がしてしまった行動だったのだ。

(可能性はかなり高いな)

もう少し確認をしたい所。何かにあたりをつけてそう思っていた彼だったが、その時男が、彼の琴線に触れてしまった。

「これで分かっただろう。いい加減諦めたらどうだ。このフィールドでは私に勝てる者はいない。お前に今出来る事は、せいぜいそうして無様に逃げ回る事くらいなものなのだよ」

男が“その言葉”を言った途端、彼の顔色が変わる。今度は本当に、彼の表情と心中は同じであった。
彼は確かに、間違いなく、何かに怒っていた。

「逃げ回るだあ……?」
「!?」

ぼそりと、しかしドスの利いた声で彼がそう零すと同時。何処かから不意に発せられた大きな音に、男は体をびくつかせた。出所が分からず、男はきょろきょろと周りを伺う。
乾いた炸裂音が辺りに響き渡ったのだった。昆虫の威嚇音に近いかもしれない。キシィ、と思わず一歩引いてしまうようなあの音が、急に耳元で鳴ったかのようだった。

「……まさか、貴様か?」

幾分上ずった声で、男が口にした。彼に問うたというよりは、それは独り言に近かった。
得体の知れないものへの恐怖。未知のものへの恐怖。それはいかに熟練した者と言えども、なかなか隠すのは難しい。男は彼の変化に、わずかだが恐怖しているように見えた。
だがそうだったとしても、それは仕方のない事だった。今の彼は誰が見ても後退りしてしまう空気を、全身に纏っていたのだ。
彼がギリギリと歯を食いしばると、普段は見えない牙が露わになる。怒りに全身を打ち震わせるその姿は、まさに野獣そのものだった。
あの大きな音は、彼が怒りのあまりに全身を硬直させた時に発せられた音だった。体中の筋肉が固められ、骨が軋んだ音。先刻彼が鳴らしていた拳だけの音とは、全く異質のものと言っていいだろう。彼が最上級の怒りを蓄えているのが、容易に分かる。

「む!?」

しかしだからこそ、彼の次の攻撃は男にとって予見しやすいものとなっていた。彼は肉食獣のように、敵の喉笛に噛みつかんとばかりに突進したが、男に距離を取られてしまう。そしてそれに追いついた頃には、もうしっかりと対応されてしまった。
繰り出された彼の拳。おそらく大岩をも穿つはずのそれは、男の能力によって直前で阻止されてしまったのだった。
『モード・スライム』
男の切り札の一つが、ここで発動された。

「……正直冷や汗をかいたぞ」

彼の拳の先で、ぐにゃりと形を変える水の塊。それが彼の拳の威力を弱めたらしい。あと一歩の所で、拳は男には届かなかった。
緊急時の備えのようなものだろうか。男の手にはいつの間にか筒のようなものが握られていて、そこから出た水がこの塊を形成したらしかった。今もその水が、開け放たれた筒の中からちょろちょろと出てきていて、水塊に繋がっている。

男は水を操れるだけではなく、性質の変化も出来るようだった。誰かに取りついたり
取り込もうとする時は通常の水に近い状態で操り、こうして自身に危険が及んだ場合はそれを変化させ、粘度の高い状態にして防御するらしい。物理攻撃主体の彼にとっては、実に厄介な能力だ。

「大した威力の拳だが、これがある限り貴様の攻撃は届かん。そして……」

男が懐から、またも何かを取り出す。
それを鳩尾の辺りにつきつけられた所で、ようやく我を失っていた彼の瞳に光が戻る。

(…………ん!?)

本能的に危険を感じて後ろに飛ぼうとした彼だったが、時既に遅し。

「私にはこういうものもある」

カチリとスイッチのような音が彼の耳に入る。その瞬間、轟音と共に、彼の腹部に尋常でない圧力がかかった。

「うぼへっ!!!」

まるで大きな巨人に思い切り殴られたかのような衝撃だった。肺を満たしていた空気が一遍に外に吐き出され、彼の体は遥か後方に吹き飛ばされてしまう。
「う、おおおおおっ」
「フハハハハ!!これで分かったろう!私に死角はない!」
立ち並ぶ木々に叩きつけられ、それを1本、2本、3本と派手に折った所で、勢いが鈍り始める。それでもまだ勢い余ってゴロゴロと何度も転がされ、そうしてやっと、彼は地面に伏した。
普通の人間なら、まず即死するレベルの攻撃である。最高速の馬車に轢かれたとしても、こうはならない。なんとも恐ろしい一撃であった。
「貴様はタフそうだからそれくらいでは死なんだろうが、さすがに効いただろう」
男の言う通り、彼は確かにダメージを負っていた。彼の旅が始まって以来の、初めてのダメージである。
「ぐ、ぬう……」
頭を振りながら、自分の体を確かめるようにして、彼はゆっくりと立ち上がろうとする。
頭、OK。腕、OK。足、OK。順繰りに確認していくと、やはり、そこに手を伸ばした時彼の顔は歪んだ。
腹部……ダメージあり。鈍い痛みが、体の芯にずしりと重く残っていた。

「てめぇ……それ……」

よたよたと歩きながら、彼は男の得物を指差した。

「“銃”か」



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無題
更新きてれうー!
白熱の頭脳戦にわくわくがとまらんお!!
しかしくまたそをてこずらせるとは敵もなかなかのつわものじゃな…

くまたその歯軋りコワスwwww
のすけ 2013/11/17(Sun) 編集
無題
あとで読むからちょっと待っててくれ
やん 2013/11/21(Thu) 編集
無題
バイト休憩なう読んだぜさあ次こいや
やん 2013/11/24(Sun) 編集
無題
ところでシステマーてなんなん。これからたその事システマーて呼んで欲しいん
やん 2013/11/25(Mon) 編集
無題
読み直してたら解説あったからたその事システマーてよぶわ
やん 2013/11/25(Mon) 編集
無題
>のすけ
もうちょっと相手弱くして短くまとめたかったけど長くなっちゃったwwwwwww感想トンクスコwwwwwwwww

>やん
俺はガチでやって強いからシステマーじゃないお!
すまん続き遅れたわ。
くまたそ 2013/11/30(Sat) 編集
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