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(くまたそブログ)
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彼を襲った衝撃の正体。それは実際に攻撃を受けた今も確定判別は出来なかったが、男の持っている得物の正体については、彼は知っていた。

『銃』

近年突然もたらされた新たな文明の利器であり、武器である。トリガーと呼ばれる引き金を引くと、金属製の筒の中を、火薬で推進力を得た小さな金属の弾が駆け抜ける。そこから爆発的なスピードで飛び出した弾は途轍もない殺傷能力を持っており、人体を軽々と貫く。
出所は不明。誰かが発明したものが広まって来たものであるとか、もしくはどこか別の地方からもたらされたものであるなど諸説はあるが、はっきりとした出自の解明には至っていないものとされている。兵器と同じように、まだまだ一般には認知されていないものである。
男も、彼からその単語が出た事に少なからず驚いたようで、
「ほお、博識だな。まだそうそう出回っているものでもないんだがな」
と、感心を隠さなかった。

しかし男の使うそれは、彼が知っているものとは少し様子が違った。弾の出口、いわゆる銃口がかなり大きく、ラッパのような形状をしていた。加えて後部の、本来なら弾を装填するだろう箇所も少し変で、風船のようなものが付いている。まさに空気ラッパのような形だった。それに柄を取り付けて、トリガー部分としている。そんな形状だ。

「しかし私のこれは特別製。ただの銃ではない」

男はそうニヤリと笑い、再び銃口を彼に向けた。

「!ふんぬぅ!」

痛む体に鞭打ち、彼はその“弾”をなんとか避ける。
何の躊躇もなく、男は引き金を引いたのだった。普段から人にその銃を向け慣れているのがうかがい知れ、その事にまた彼は眉をひそめる。

「おい……そんなものをポンポン人に向けて撃つんじゃねえ」

先程受けた時は何だか分からなかったが、今避けた時に彼ははっきりと見た。弾の正体は、またしても“水”であった。
銃と言うと、通常は金属の弾を用いるもののはずだが、男はどうやらそれを水にして運用しているらしい。ラッパのような銃口から出る数十センチ程の弾は、貫通力はないものの、人間を軽々と吹き飛ばす威力を持っていた。十分凶器と言っていいものだろう。

「私の兵器とこの銃は最高の相性でな。私が水を操り、この特殊材質で出来た風船のような部分に弾として装填する訳だ。私の力を使えば、通常では不可能なレベルで圧縮装填出来、威力も今貴様が受けた通りの強さを持つ。水がある環境なら弾切れも無い。どうだ素晴らしいだろう」

彼は、そのなおも続いていく男の大げさな身振り手振りの演説を、しばらく無表情に聞き流していたが、やがてうんざりしたように言った。

「……それも兵器と一緒に没収だ」

男の言葉に無理やり割って入る。すると、男は演説に水を差されたのが気に食わなかったのか、彼に向かってまたしてもあの言葉を、“わざと”加えて言い放ったのだった。

「そいつは無理だ。言ったはずだ。今貴様に出来るのは、無様に逃げ回る事だけだとな!」

まずい、と彼は思っていた。挑発だと分かっていたのに、それでもやはり止められなかった。その言葉を聞いた直後、彼の視野は途端に狭くなり、耳にザーッと血の昇る潮の満ち引きのような音がして、顔が一気に火のように熱くなる。
「別に逃げてねえよ!!」
気付くと彼は、脊髄反射のようにそう答えていた。そして言い終わるよりも前に、男に向かって鬼の形相で猛ダッシュを始めていた。彼の目はもう、男の像以外にピントは合っていなかった。

彼にとって、その言葉は禁句なのだった。彼は温厚な人間だが、自分に向かって放たれるその言葉だけは聞き捨てならないようである。『逃げる』という言葉は、どういう訳か彼にとって最高の侮蔑に当たる言葉だったのだ。
一度彼の様子を見れば、誰にでもこれは言ってはいけない事なのだと分かるだろう。それ程の激昂具合なのだった。

牙が剥き出しの、飢えた野獣が向かってくる。普通なら踵を返す所である。
しかし男は、そんな彼を見てもしたりと笑っていた。

「馬鹿め!!」

それもそのはず。
戦闘に慣れた人間が、こういう要素を放っておく訳が無いのだ。

「うお!?」

男が右腕をくいっと上げるような動作をすると、急に男の姿が彼の視界から消えてしまう。視野狭窄状態の彼だったが、不可解過ぎるその現象に驚いて幾分そこで冷静さを取り戻す結果となった。
しかし、やはりまたしても遅かった。彼は早々にそれがなぜかに気付いて足にブレーキを掛けようとしたが、やはり止まる事は出来なかった。

「!うごぼぼっ……」

罠だった。彼の目の前に突如として現れた巨大な水の壁。それが彼の行く手を阻んだ。ぬめる地面にブレーキなどそう簡単に掛けられるはずもなく、彼はその壁に頭から突っ込んでいってしまったのだ。
地面から、まるで噴水のように打ち上がるその水壁は、対象を捕まえると彼を包むように形を変えていき、やがて球体になる。そのまま彼は、その水球の中にすっぽりと囚われてしまった。

冷静さを失っていたとは言え、こうも簡単に罠にはまってしまった自分に、彼は苛立ちを隠せないでいた。
認識の外を、上手く突かれてしまった。

彼を水球の中に捕らえた事を確認すると、ゆっくりと、男は彼に近づいて行った。
「……気分はどうだ」
男は勝ち誇ったように、彼の目の前で顎をしゃくる。
「どうも、逃げるという言葉が気に食わんようだな。うまく型にはまってくれて手間が省けた」
そう言いながら手元で、また小さな水球を作り出す。
「こうして手元で水球を作って動かすデモンストレーションをしてやると、相手は無意識のうちにそこだけに注意するようになりやすい。別に私は手元に水を集めて水球にしなくとも、範囲内にある水をただ自由に操作する事だって出来るのだよ」

男の言う通りであった。、彼はしてやられてしまったのだ。
彼の足元には、今も川のように流れる一際大きな水たまりがあった。男はこれを使い、先程の水の壁を構築したようである。怒りで直線的な動きになる事を利用され、彼はこの上を通るように誘導されてしまったのだ。

賊にいいように扱われてしまったという事がとても腹立たしかったが、しかしそれでも彼は、握り締めていた拳の力を、ゆるゆると解いた。
水の浮力に揺蕩う自身の体。熱く火照った体に、ひんやりとした水が心地いい。透き通った水の中を漂うのは単純に気持ちが良かった。囚われの身ではあったが、その水のおかげで、彼の頭は徐々に冷えていった。
別に腹を立てるまでもない。掌を顔の前で泳がせながら、そう彼は思っていたのだ。血が上るのも早いが、引くのも早かった。

「っ!?」

しばらく水に身を任せ、そうして水中を漂っていた彼だったが、突然男にキッと強く光る目を向けた。その目は漫然とただ囚われている人間がするようなものでは決して無く、何も出来るはずがないと思っているだろう男も、つい身構えてしまう程に力のあるものだった。

彼は、目だけで言ったのだ。
『散々好き勝手やってくれたが、今度はこちらの番だ』
そうしてから、彼は身構える男を横目に、“貫き手”を両脇に携えた。


(我流・ゴリ押し工事術・穴掘り馬鹿一代!)


ネーミングは適当である。彼は、わざわざ水の中でごぼごぼしながらそう言い終えると、その技の名の通り、その場で穴を掘り始めた。

「むう……っ!」

彼は凄まじい速さでそのまま地面を掘り進み、あっという間にその場から姿を消した。
沸き起こる土砂の雨。その激しさに男は為す術もなく、埋もれていく彼をただ見ている事しか出来なかった。
彼が地中を掘り進む振動が響くと、男が俄かに慌て出す。後ずさりしながら注意深く地面を伺い、身構える。
額に汗が滲みだす。どうやらこの状況、男にとって非常に都合が悪いようである。

「くっ……」

彼には水が取りついているはずである。普通に考えれば、絶対有利なのは男の方なのに、なぜ男はこんなにも慌てているのか。
それは、男には分かっていたからだった。彼がとっくに、自由の身になってしまっている事を。

「むぅん!は!!」

彼のくぐもった声がどこかからすると、突然男の後ろの地面がはじけ飛ぶ。

「ぬうっ……!」

泥や小石をしこたま辺りにぶちまけながらそこに現れたのは、もちろん彼である。ドリルでも使わなければ、地面などそうそう早くは掘り進む事など出来はしないはずなのに、彼はそれを2本の腕だけでやってのけた。驚くべき力と回転力であった。
そして彼はその勢いのまま、今度こそとばかりに男に向かって拳を繰り出したのである。

男は、その自身に向かってくる恐るべき拳を横目で確認すると、素早く身を翻して防御態勢を取ろうとした。
しかし、やはり不意の攻撃に対応する事は難しかったのだろう。それは完全には間に合わなかった。男は先程と同じように彼の攻撃を無効化しようとしたが、まだ不十分な態勢で受けてしまったせいで、その勢いを殺し切る事が出来なかった。
今度は間違いなく、彼の拳が男に届いたのだ。

「ぐっおお……っ!!」
しっかりと先程のスライム状の水球を挟まれてしまいはしたが、男の脇腹に、彼の拳が確かに突き刺さっていた。

「手応えあり!!」

メキメキと、あばらの何本かはいったような音がした。

「まだまだ!!」

吹き飛んで行く男に、彼はなおも追撃を仕掛けに行く。

「くっ!」

おそらくは気絶しそうな程の痛みの中にいるだろう男だったが、それでも態勢を立て直し、水球で追撃を防御しようとする。そのスライム状の水球は、慌てて形成したせいなのか先程よりも小さく、せいぜい50センチ程度の大きさに留まっていた。少し彼の攻撃を受け止めるには心許ない。
しかし、そんな悪条件でも、男は何とかそれを受け止める事に成功する。水球ははちきれんばかりに伸びきってしまったが、男の顔面寸前で、彼の拳がかろうじて止まったのだ。

一度止めてしまえばどうにでもなると思ったのだろう。そうして余裕の笑みを浮かべようとする男だったが、しかし次の瞬間、その顔は一変する。
男は口をへの字に結び、歪ませ、そして顔を引き攣らせた。
彼の勢いが止まらない。

「おらおらおらおらおら!!!」
「ぐ、おおおおおおっ」

水球でガードされている事には全く構わず、彼は両腕で連打をそこに打ち込む。男はそれをガードする事に精一杯で、攻撃に転じる事が出来ない。

間断なく打ち込まれる殴打に、水球がその形を変えていく。元の球体に戻ろうとする前に彼の連打が打ち込まれるため、水球はどんどん薄く引き伸ばされていってしまう。貫かれはしないものの、男はそれの維持で手一杯の状態だった。

「思った通りだったぜ」

そうして殴り続けながら、彼は涼しい顔でおもむろに話し始めたが、その連打は決して軽いものではなかった。ボクサーの無呼吸連打以上の速さと威力を兼ね備えた、彼以外には到底成し得ない圧倒的出力。今男は、大砲の雨あられに曝されているのと同等の圧力を感じているはずである。それ程の連打なのであった。

「俺が穴を掘り始めていったら、割とすぐだったぜ。お前の水球が壊れるの」
彼はとにかく、そうして男に反撃の暇を与えないようにしながら、自身が自由になった理由もろもろについて話し始めたのだ。
「気付いちまえばなんて事はねえ力だな。やっぱりシステマーだよ、お前」
一見突拍子も無い、彼の苦し紛れの行動のようにも見えたあの行動には、実はきちんとした理由があった。何の考えも無くそうした訳ではなかったのだ。

「べらべら喋るから、敵に閃きを与えちまうんだぜ」

彼はそうニヤリと笑い、男にまたしても、“種明かし”をし始めた。



もうちょっとだけ続くんじゃよ(´・ω・`)

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