惜しい男をなくしたと、その場に居た人間は口々に言った。
「もう少しコメントをしてあげていれば……」
いつもは“いてつくはどう”のような言葉を吐く毒舌家のその女性も、今日ばかりはそうこぼし、皆に同意して肩を落とした。
新年度の景気付けにと集まったはずのその公園で、彼と親交のあった者達は、満開のはずの桜を見上げることもなく、そうしてただ、うなだれていた。
桜の開花と共に、彼は旅立ってしまった。長く寒い冬は終わり、さあこれから何をしようか。そう皆で意気込んでいた矢先のことだったから、ショックが大きかった。
「っすわ……」
そんなムードの中、糸目の男が何か呟いたのを、近くのイケメン風の男が拾った。
「どうしたんや」
すると糸目の男は、少し迷いがちにこぼした。
「そう言えば最近、たそさんの配信もブログも、全然見てなかったっすわ……」
「ああ……」
イケメン風の男が然りと頷く。
「まあ、最近はあんまりやってなかったしな。ブログも更新頻度は落ちてたから、仕方ないっちゃ仕方ないと思うで」
「でも……」
続けて何か言おうとする糸目の男に、イケメン風の男は諭すように言った。
後悔しても仕方ない、と。
「たそ自身も、見たいものだけを見ればいい。やりたいことがあるならそれを優先すればいい。そんな感じのことは言ってたしな。あんまり気にしすぎるもんでもねえ」
イケメン風の男は、そうしてポンポンとその肩を叩き、糸目の男を慰めた。
その二人の会話を皮切りに、徐々に場の雰囲気は良くなっていった。いつまでも下を向いていても仕方ないと、皆が揃って顔を上げ始めた。
そうだ。これは仕方のないこと。誰のせいでもない。
そう無理やり胸の奥に押し込んで、彼らは思い出したかのように、その場に持ってきた食べ物を広げ始めた。
と、そんな時だった。
「待ってよ!」
和やかになりかけていたその場に、大きな声が響き渡った。
「こんなのおかしい!なんでそんな簡単に割り切れるの!!」
『夢』と大きく書かれたTシャツを着たクラゲ頭の女性が、高らかに叫ぶ。
「人一人が急にいなくなったっていうのに、こんなの絶対おかしいよ!」
肩をいからせ、震わせながらそう言う彼女に、その場にいた全ての人間が動きを止めた。
今日一日くらい彼を偲ぼうよと、彼女はついには泣き出してしまう。それを見かねたいてつくはどうが彼女に寄り、何がしかささやきながらその頭を抱き、優しく撫でた。
それ以外の人間は、皆金縛りにあったように立ちすくみ、その様子を呆然と見ていた。
誰も彼もが、動けなかった。人の心を持つ身でありながら、あまりに薄情だったかもしれない。そんな風に思ってしまって、言葉が出てこなかった。
少し風が出てきたその公園に、桜が舞い散り始める。それぞれの頭に落ちた花びらは肩に落ち、肩に落ちた花びらはするりと滑って、地面に落ちていく。
また、長い沈黙。沈黙こそが彼への鎮魂歌とでも言うように、彼らは一様に、しばらく押し黙った。
宴会は、今日はもうやめにしよう。彼を偲んで、それを肴に桜をただ見上げていよう。
誰かがはっきりとは口にしたわけではなかった。だが、皆の想いは同じだった。ただそうして、暫くの間満開の桜を見上げていた。
見えなくとも、そこには確かに絆があった。だからそれで、十分だった。
やがて、地面に薄い花びらのじゅうたんが出来始めた頃。イケメン風の男が、ぼそりと呟いた。
「いいやつやったな……」
その声に、ええ、と近くに居たトゲトゲ頭の男が頷いた。
「基本くそつまらないんですけど、たまあに爆発的な面白いネタをぶっこんでくれる、憎めないやつでした……」
その言葉に、次々に賛同の言葉が上がる。
「確かに、憎めなさある」
クレイジーな目をしたウサギ頭の男が瞑目しながらそう言うと、
「公開処刑しても怒らない温厚なやつやった」
と、鳥頭のヒップホッパーも肩を落とし、彼の急逝を残念がった。
コメントは確かに無かったかもしれない。しかし彼という存在は、確かにこうして皆の心の中にあった。これを絆と言わずして、何と言うのか!
「……やっぱり、飲もうぜ」
イケメン風の男が皆に呼びかける。持ってきたウイスキーを右手に持ち、高らかにその腕を上げた。
「おら、また下向いてんじゃねえぞお前ら。あいつがいいやつやったのは、聞いての通りや。だったらあいつは天国におるんやから、地獄のある地面の方なんか見てても仕方ねえ。笑って見上げて、送ってやろうや……」
鶴の一声だった。イケメン風の男がそう言うと、皆の顔にすっと光が戻った。
お通夜ムードはもう終わり。その呼びかけをきっかけに、彼らはこぞって飲み物を取り出し、その腕を抜けるような青空に向かって伸ばした。
『くまたそよ、永遠に』
誰かが言ったその言葉で、乾杯が行われた。
そうだ。やはり彼へのレクイエムが、沈黙なんかでいいはずがない。彼らのその想いが、風に舞上がる桜吹雪に乗って運ばれていく……。
宴は、それはそれは盛大に行われた。イケメン風の男が急にとても太いげっ歯類に変身したり、糸目の男が周りの人間に1000ダメージを与えて回ったり……各々が入り乱れて、それはもうわやくちゃな宴となった。誰も彼もが笑顔で、これ以上ない楽しい宴となったのだった。
しかしそんな宴の席を、桜の木の影から不安げに見つめる男がいた。
「お、おいぃ……?」
圧倒的な肉体美を誇るその熊顔の男は、困惑を隠せないでいた。
「ものすごい出て行きにくい雰囲気ぞこれぇ……」
彼はくまたそ。なぜか今回イケメン風の男達に死亡扱いされてしまった、可哀想な男だった。
「ちょっとネタでやってみただけだったんぞ……それがどうしてこんなことに……」
彼はただのジョークサイトのようになってしまった去年の反省を活かし、今年はもうちょっとちゃんとエイプリルフールしようと、ブログの改造をした。その結果、それを真実だと誤認されてしまって今に至る。そういう顛末だった。
「ど、どうするんぞこれぇ……」
とりあえずもう帰るしか……彼がそう思って踵を返そうとした時、ふいに宴の中から悲鳴が上がった。
「ひえっ!?あれって……」
イケメン風の男がこちらを指差し、わなわなと震えていた。
「あ……ちゅーっす……?」
これを好機と見て、皆に向かって挨拶をするくまたそ。
もしかしたら仲間に入れてくれるかもしれない。しかしそこにいた面々は、全く彼の想定外の動きをした。
「ぎゃ、ぎゃあああああああ!!!」
「出たあああああああああ!!」
「ファ、ファントムぞおおおおおおおおおお!?」
「コメント退散!コメント退散!」(?)
悲鳴を上げられ、おおぬさまで振られる始末。彼らはそうしてあっという間に、その場から霧散していってしまった。
「あ……」
そして、いつものようにはぶたそになった彼。彼はまたしても、エイプリルフールネタに失敗してしまったのだった……。
しかし後になって、ツイッター上でアレがネタだったと明言すると、いてつくはどうをくらうなどの紆余曲折はあったものの、きちんと皆は受け入れてくれた。
やはりあったのだ。ここには。見えなくとも、あったのだ。
「ああおんどれら……。ここには絆があって、本当に良かった……(涙)」
PCモニタを眺めながら、彼はそうして皆の寛大さに感謝しつつ、新年度から咽び泣いたのであった……
強く生きます(´・ω・`)
「もう少しコメントをしてあげていれば……」
いつもは“いてつくはどう”のような言葉を吐く毒舌家のその女性も、今日ばかりはそうこぼし、皆に同意して肩を落とした。
新年度の景気付けにと集まったはずのその公園で、彼と親交のあった者達は、満開のはずの桜を見上げることもなく、そうしてただ、うなだれていた。
桜の開花と共に、彼は旅立ってしまった。長く寒い冬は終わり、さあこれから何をしようか。そう皆で意気込んでいた矢先のことだったから、ショックが大きかった。
「っすわ……」
そんなムードの中、糸目の男が何か呟いたのを、近くのイケメン風の男が拾った。
「どうしたんや」
すると糸目の男は、少し迷いがちにこぼした。
「そう言えば最近、たそさんの配信もブログも、全然見てなかったっすわ……」
「ああ……」
イケメン風の男が然りと頷く。
「まあ、最近はあんまりやってなかったしな。ブログも更新頻度は落ちてたから、仕方ないっちゃ仕方ないと思うで」
「でも……」
続けて何か言おうとする糸目の男に、イケメン風の男は諭すように言った。
後悔しても仕方ない、と。
「たそ自身も、見たいものだけを見ればいい。やりたいことがあるならそれを優先すればいい。そんな感じのことは言ってたしな。あんまり気にしすぎるもんでもねえ」
イケメン風の男は、そうしてポンポンとその肩を叩き、糸目の男を慰めた。
その二人の会話を皮切りに、徐々に場の雰囲気は良くなっていった。いつまでも下を向いていても仕方ないと、皆が揃って顔を上げ始めた。
そうだ。これは仕方のないこと。誰のせいでもない。
そう無理やり胸の奥に押し込んで、彼らは思い出したかのように、その場に持ってきた食べ物を広げ始めた。
と、そんな時だった。
「待ってよ!」
和やかになりかけていたその場に、大きな声が響き渡った。
「こんなのおかしい!なんでそんな簡単に割り切れるの!!」
『夢』と大きく書かれたTシャツを着たクラゲ頭の女性が、高らかに叫ぶ。
「人一人が急にいなくなったっていうのに、こんなの絶対おかしいよ!」
肩をいからせ、震わせながらそう言う彼女に、その場にいた全ての人間が動きを止めた。
今日一日くらい彼を偲ぼうよと、彼女はついには泣き出してしまう。それを見かねたいてつくはどうが彼女に寄り、何がしかささやきながらその頭を抱き、優しく撫でた。
それ以外の人間は、皆金縛りにあったように立ちすくみ、その様子を呆然と見ていた。
誰も彼もが、動けなかった。人の心を持つ身でありながら、あまりに薄情だったかもしれない。そんな風に思ってしまって、言葉が出てこなかった。
少し風が出てきたその公園に、桜が舞い散り始める。それぞれの頭に落ちた花びらは肩に落ち、肩に落ちた花びらはするりと滑って、地面に落ちていく。
また、長い沈黙。沈黙こそが彼への鎮魂歌とでも言うように、彼らは一様に、しばらく押し黙った。
宴会は、今日はもうやめにしよう。彼を偲んで、それを肴に桜をただ見上げていよう。
誰かがはっきりとは口にしたわけではなかった。だが、皆の想いは同じだった。ただそうして、暫くの間満開の桜を見上げていた。
見えなくとも、そこには確かに絆があった。だからそれで、十分だった。
やがて、地面に薄い花びらのじゅうたんが出来始めた頃。イケメン風の男が、ぼそりと呟いた。
「いいやつやったな……」
その声に、ええ、と近くに居たトゲトゲ頭の男が頷いた。
「基本くそつまらないんですけど、たまあに爆発的な面白いネタをぶっこんでくれる、憎めないやつでした……」
その言葉に、次々に賛同の言葉が上がる。
「確かに、憎めなさある」
クレイジーな目をしたウサギ頭の男が瞑目しながらそう言うと、
「公開処刑しても怒らない温厚なやつやった」
と、鳥頭のヒップホッパーも肩を落とし、彼の急逝を残念がった。
コメントは確かに無かったかもしれない。しかし彼という存在は、確かにこうして皆の心の中にあった。これを絆と言わずして、何と言うのか!
「……やっぱり、飲もうぜ」
イケメン風の男が皆に呼びかける。持ってきたウイスキーを右手に持ち、高らかにその腕を上げた。
「おら、また下向いてんじゃねえぞお前ら。あいつがいいやつやったのは、聞いての通りや。だったらあいつは天国におるんやから、地獄のある地面の方なんか見てても仕方ねえ。笑って見上げて、送ってやろうや……」
鶴の一声だった。イケメン風の男がそう言うと、皆の顔にすっと光が戻った。
お通夜ムードはもう終わり。その呼びかけをきっかけに、彼らはこぞって飲み物を取り出し、その腕を抜けるような青空に向かって伸ばした。
『くまたそよ、永遠に』
誰かが言ったその言葉で、乾杯が行われた。
そうだ。やはり彼へのレクイエムが、沈黙なんかでいいはずがない。彼らのその想いが、風に舞上がる桜吹雪に乗って運ばれていく……。
宴は、それはそれは盛大に行われた。イケメン風の男が急にとても太いげっ歯類に変身したり、糸目の男が周りの人間に1000ダメージを与えて回ったり……各々が入り乱れて、それはもうわやくちゃな宴となった。誰も彼もが笑顔で、これ以上ない楽しい宴となったのだった。
しかしそんな宴の席を、桜の木の影から不安げに見つめる男がいた。
「お、おいぃ……?」
圧倒的な肉体美を誇るその熊顔の男は、困惑を隠せないでいた。
「ものすごい出て行きにくい雰囲気ぞこれぇ……」
彼はくまたそ。なぜか今回イケメン風の男達に死亡扱いされてしまった、可哀想な男だった。
「ちょっとネタでやってみただけだったんぞ……それがどうしてこんなことに……」
彼はただのジョークサイトのようになってしまった去年の反省を活かし、今年はもうちょっとちゃんとエイプリルフールしようと、ブログの改造をした。その結果、それを真実だと誤認されてしまって今に至る。そういう顛末だった。
「ど、どうするんぞこれぇ……」
とりあえずもう帰るしか……彼がそう思って踵を返そうとした時、ふいに宴の中から悲鳴が上がった。
「ひえっ!?あれって……」
イケメン風の男がこちらを指差し、わなわなと震えていた。
「あ……ちゅーっす……?」
これを好機と見て、皆に向かって挨拶をするくまたそ。
もしかしたら仲間に入れてくれるかもしれない。しかしそこにいた面々は、全く彼の想定外の動きをした。
「ぎゃ、ぎゃあああああああ!!!」
「出たあああああああああ!!」
「ファ、ファントムぞおおおおおおおおおお!?」
「コメント退散!コメント退散!」(?)
悲鳴を上げられ、おおぬさまで振られる始末。彼らはそうしてあっという間に、その場から霧散していってしまった。
「あ……」
そして、いつものようにはぶたそになった彼。彼はまたしても、エイプリルフールネタに失敗してしまったのだった……。
しかし後になって、ツイッター上でアレがネタだったと明言すると、いてつくはどうをくらうなどの紆余曲折はあったものの、きちんと皆は受け入れてくれた。
やはりあったのだ。ここには。見えなくとも、あったのだ。
「ああおんどれら……。ここには絆があって、本当に良かった……(涙)」
PCモニタを眺めながら、彼はそうして皆の寛大さに感謝しつつ、新年度から咽び泣いたのであった……
おわり
何がウケたって、誰も来なくて吹いたわwwwwwwwwwwww強く生きます(´・ω・`)
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