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彼は知らなかった。何も知らなかった。


猛る拳をこの身に受けた事は何度もある。それは当然のように痛みをともない、その痛みは体の芯を閃光のように突き抜け、脳髄に苛烈な記憶を刻みつける。
拳で頬を殴られたらこんな痛み。
腹に蹴りを受けたらこんな痛み。
記憶が痛みを知っているから、身構える事が出来る。これはあの時受けたものと同じようなもの。だからこんな痛みだろうと、何となく予想がついて耐える事が出来る。


しかし彼は知らなかった。それを知らなかった。


熱も帯びていない。角ばってもいない。そして、こんなにも小さな拳が、どうしてこうも胸を抉るのか。彼女のそれが自分の胸を軽く小突く度に、まるで心臓を直接火で炙られているかのようなキリキリした痛みが、じわじわと全身に広がっていく。
初めて味わう、耐え難い痛みだった。一分一秒でも早く止めさせないとどうにかなってしまいそうなのに、止める事が出来ない。涙を帯びた拳が、ただ力無く突いてくるだけなのに……


こんな殴り方があるなんて、知らなかった。




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