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彼の見据えた先に、ゆらりとうごめく影があった。特別大きくもないが、小さいという訳でもない。おそらくあの低い声の男だろう。その男は、折れた木々の裏から立ち上がったかと思うと、彼の方に向かって歩いて来た。
顔は、深いフードを被っているせいでよく分からなかった。加えてある部分が異様と言うか、特殊で、余計に人相が確認しにくくなっている。

「……なるほど。それでこの真っ暗闇でも、相手が見えるって訳か」

彼の組み立てた論理には一つ穴があった。どうやって相手に正確に攻撃を加えるのか、という所がどうしても分からなかったのだが、その穴が、今塞がった形である。
男は、何か機械的なゴーグルのようなものを掛けていて、それを通して周りを見ているようだった。おそらく闇の中でも周りを可視化出来る装置のようなものだと思われる。でなければ、この闇で相手の場所を正確に把握する事は、彼以外には不可能だからだ。

「貴様……兵器使いか」

いささか警戒感の増した低い声で、男は彼に問いかける。
彼はそれに、指をパキパキいわせながら答えた。

「さあ、どうだろうな」

お互いに受け答えをはぐらかす。
もはや両者の間の緊張感は、最高潮に達していた。どちらから急に相手に飛びかかったとしても、全くおかしくはない状況である。実際彼は男と相対してからは、先程技をはなった時と同じような構えを取り、いつでも戦える状態を維持していた。

しかし、よく見ると男の方は違うのである。全く構えを取る様子が無く、ずっと棒立ちのままであった。彼はそれを不審に思っていたが、構えは解かなかった。
しばらくそうして、彼らはお互い無言の値踏みを続けた。

相手の呼吸の音が、かろうじて耳に届く。彼の方には、おそらく男のゴーグルから出ているだろう、一種耳鳴りのような機械音も微かに届いていた。
いつの間にか、あの全てを洗い流してしまうかのような雨は完全に止み、辺りに静けさが戻ってきているのだった。気付けばその場には、涼し気な音色を奏でる虫達の、求愛の声がわずかにあるのみである。

時間にすると一分やそこら。ただそこで何もせず、対峙しているように見える彼らだったが、実際は少し違った。
水面下で、彼らは神経を削り合っていた。目線、ちょっとした手足の動き。小さな動きではあるものの、そうして相手を牽制し続けていたのだ。下手をすればただの呼吸でさえ、開戦の狼煙になりそうな程の張り詰めた場であった。

「くっく……」
そんな息の詰まりそうな状態の中、口火を切ったのは男の方であった。フードの奥で、不敵に男は笑う。
「まあ、待て」

男はなぜか、戦う意志がないようだった。一時増していたはずの警戒感が、今は少し薄れている。

「貴様が兵器使いなのはさすがに分かる。どうやら亜人のようだが、それにしてもさっきの一撃は滅茶苦茶過ぎる。何か使ってるのは明白だろう」

亜人は、彼を見ていれば分かるように、普通の人間よりも何かしらの能力が優れていたりする事が多い。身体能力が高かったり、五感が優れていたりする様々な者がいる。
男も、戦いに慣れているようだった。少しやりとりがあれば、このように相手の力をある程度測る事が出来るようである。

「だが、何を使ってるにせよ、素晴らしい力だ」

またも低い声で、そうして男は笑う。
彼の方は、急に敵に褒められておかしいと思ったのか、より警戒を強めた。

「何だよ。褒めても逃してやらねえぞ」
彼がそう言うと、男はそこでピタリと笑うのをやめた。そして一転して、また元の少し神経質そうな、硬質な声色で答えた。
「逃げる気などハナからない。どうやら私は、貴様を案内しなければならないようだからな」

その男の言葉に、彼は「は?」と首を傾げた。場にそぐわない、どうしても素直に頭に入って来ない言葉があったためである。

「案内?いきなり何言ってんだ?」

もちろん彼は分かっている。例えば案内とは、何かその場所について説明を加えながら、土地勘の無い人を目的地に連れていってあげる、というような事である。
だから彼には分からなかった。なぜ敵からそんな、いかにも親切を気取ったような言葉が急に出てくるのか。

「……何だお前。実はこの辺りのガイドさんなのか?」
じりじりと詰め寄ろうとする彼に、男の方は一歩後ずさる。
「おっと。待てと言っているだろう。少し話をしようじゃないか」
「ああん?話だあ?」

この期に及んで、この男は何を言い出すのか。彼の方は、最悪死んでしまったかもしれないような攻撃を男から受けているのだ。話し合いをする余地はとうに消えてしまっている。
ただ時間稼ぎをしているようにも見える。どうも胡散臭いと、彼は思った。

「……わりぃが、俺も暇じゃないんでな」
早々に会話を打ち切ろうとする彼だったが、男は引かなかった。
「それなら私もだ。だから単刀直入に言ってやろう」
今度は男が、一歩歩み出る。それから何を思ったか、右手を前に出す。
彼はそれを見て、眉を寄せた。これはまるで……。

「私達の仲間にならないか」

彼の眉間に寄せられた皺が、より深くなった。
男の様子に変わった所は無い。しれっと、一切の淀みもなく男はそう提案してきたのだった。事もあろうに、これ。握手まで求めてきながら。
しかし予想に反して、本当に簡潔に要件だけを述べてきた。これでは時間稼ぎにはならないが……。

考えを色々な所にまで巡らせてみたが、分からない。彼にとっては珍しい事であった。相手の意図が、全く読めない。

「……冗談だろ?」
「冗談で言うような事では無い」
「おいおい」彼は拳を、みしみしと軋む音がする程固く握り締めた。「人殺しの仲間になんかなる訳ねえだろ。アホかお前」
彼の声に、明らかに不愉快な色が混じり出す。
しかし、男はそれを全く意に介さず、またもくつくつと笑った。
「やはり、そう聞いて来たんだなお前は」
そんなに変な事を言った覚えは彼には無い。なのに、よほど彼の言葉におかしい所でもあったのか、いつまでも男はそうして笑い続ける。

これでは埒があかない。そう思った彼は、気になる点もあったので、不本意ながらも自分から会話を進める事にした。

「“達”と言ったな。お前は何かの組織に属しているって事で、いいんだな?」

なるべく情報を引き出したい。どうもこの男の裏には、何かでかい後ろ盾のようなものがあるように思えた。ただの盗賊団だとは、どうしても彼には思えなかった。この男の持つ雰囲気は、そういうものとは明らかに異質だからだ。

「そうなるな」

考えていると、彼の問いに男は特に濁す事もせず、あっさりと肯定してきた。どうやら隠すつもりは無いらしい。

「私は組織の“案内人”。まあ、詳しい事は我々の所に来てもらってから話すとしよう。色々実際に見ながら話した方が分かりやすいだ……」
「だからよ」
彼が、男の言葉に被せるように割って入る。
「人殺しに何言われた所で、はいそうですかっていきなりついて行く奴が何処にいるんだよ」
「っ!」

男が大きくその場から飛び退く。

「色々喋ってもらおうと思ったが、やめだ」

呟くような口調とは裏腹に、彼の体から再び闘気が沸き起こり始める。男はそれを見て、素早く距離を取ったようだ。

「まずはお前を捕まえてから。話はその後でじっくり聞かせてもらう」
会話は終わり。有無を言わせぬ強い拒絶が、彼のその言葉にははっきりと含まれていた。
土壌が違い過ぎる人間と話すというのは、とても時間がかかる事なのだ。考え方が根本的に異なるせいで、会話がうまく噛み合わない。
この場で話しても仕方がない。だから彼は、そう考えた。

その突き刺すような彼の視線を受け、男はやれやれとばかりに首を振った。さすがに男も、この場での説得は諦めたようである。
「……何を言っても無駄か」
しかし言いながら、ここに来て初めて、男が構えらしい構えを取った。おもむろに両手を広げ、足を少し開く。
手のひらは上に向けられている。かなり特徴的な構えだ。

「ならば仕方ない」
瞬間、静かな雰囲気が一転する。男のゴーグルが、フードの奥でギラリと光る。
「力づくで連れて行くとしよう」
男がそう言うと同時に、男の手のひらの上に、何かが渦巻き始める。
「む!?」




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無題
ついに敵キャラ登場?! オラワクワクしてきたぞ
もしかして兵器本編に登場したあいつやこいつか…? それともまったく新しい組織…?
のすけ 2013/10/03(Thu) 編集
無題
今回も、何やらやばい(?)のが暗躍しているらしいぞ!
くまたそ 2013/10/22(Tue) 編集
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