おもむろに彼は背負っていた大きなリュックをその場に下ろしたかと思うと、中をまさぐって、何か木の角材のようなものを取り出した。
「さて」
口笛を吹きながら、彼はさらにジャラジャラとリュックの中身を地面に広げていく。大小様々な木材と、釘であった。
彼はまず、その取り出した数十センチ四方の長方形の木の板を地面に置いた。その上に、今度は細長い一メートルくらいの角材を重なるように置いた。
立ち上がって、細い角材の方に何個か釘を投げつける。するとそれは見事に垂直に刺さり、あとは打ち込むだけ、という所までになった。
「よし」
彼は、両の拳を腰のあたりに置き、息を吸い込んだ。そしてその息を吐くと同時に、繰り出した。
(~)
γ´⌒`ヽ ババババババババ!
{i∩i:i∩} =つ =つ
( `・ω・)=つ≡つ 「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
(っ ≡つ=つ=つ
/ ) =つ =つ=つ
( / ̄∪ =つ =つ
彼はハンマーやペンチなどの工具類を一切持っていなかった。必要なかったのである。
彼の筋力を持ってすれば、こうして釘は、小刻みに掌底を使って押し込んでしまえばいいのだ。なんとも便利な体である。日曜大工は彼に任せてしまった方が、早く済んでいいだろう。
そして今度は、リュックから大きなハケと缶詰のようなものをいくつか取り出し、その缶詰を彼はこれまた素手で器用にあけた。
缶の中身は、色とりどりのペンキだった。
「ふんふんふーん♪」
口笛から鼻歌へと移行する。上機嫌な彼は、そのままそのペンキとハケを使って、作ってしまったのである。
元の通り、いや、元より断然小奇麗に見やすくなった、道案内の看板を。
「ふっふ……」
しかし彼は、完成した看板を掲げて不敵な笑みを漏らした。もし近くに誰かが居たとしたら、問答無用で通報されていただろう。それはおよそ、良いことをした人間がこぼすような、健全な笑みではなかったのだ。
理由は簡単であった。彼は看板を、完全な元通りにはしなかったのである。ある場所の記述を、改ざんしていたのだ。
この街道の名は逃亡街道6号線と言って、『タソ族大逃亡線』上に無数に存在する街道の一つである。世界のどこよりも綺麗に整備されたこの街道は、交易が盛んで人の往来が激しく、活気がある。おかげで安全に旅ができ、なおかつ辿っているだけでタソ族達が残した遺跡に触れることができるとあって、バックパッカーなどの旅人達に人気なのであった。
こんなに素晴らしいものであるにも関わらず、しかし彼は、ある点が気に食わなかったのだ。
「なぁにが、“逃亡”街道だ」
なんと彼は、長年この辺りの住民や、旅人達に慣れ親しまれていた逃亡街道というその名前自体を改ざんしてしまったのである。
『タソ族栄光街道』
彼は、新しい看板にそう記した。
「……俺は逃げん」
ただ明朗快活に見える彼だったが、そんな彼にも、何か色々な想いや、背負っているものがあるようである。
彼はどこまでも続いていくような、街道の先を見据えた。
(まずはここから。俺が塗り替える)
ミシ、と軋む音がするほど、彼は両拳を握りこんだ。
そうして遠い地平線を見やる彼には、並々ならぬ決意が感じられた。
「さて、次いくか」
リュックを背負い、そのまま彼は歩き出した。いつ終わるとも知れない、長い長い旅の始まりであった。
「さて」
口笛を吹きながら、彼はさらにジャラジャラとリュックの中身を地面に広げていく。大小様々な木材と、釘であった。
彼はまず、その取り出した数十センチ四方の長方形の木の板を地面に置いた。その上に、今度は細長い一メートルくらいの角材を重なるように置いた。
立ち上がって、細い角材の方に何個か釘を投げつける。するとそれは見事に垂直に刺さり、あとは打ち込むだけ、という所までになった。
「よし」
彼は、両の拳を腰のあたりに置き、息を吸い込んだ。そしてその息を吐くと同時に、繰り出した。
(~)
γ´⌒`ヽ ババババババババ!
{i∩i:i∩} =つ =つ
( `・ω・)=つ≡つ 「オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
(っ ≡つ=つ=つ
/ ) =つ =つ=つ
( / ̄∪ =つ =つ
彼はハンマーやペンチなどの工具類を一切持っていなかった。必要なかったのである。
彼の筋力を持ってすれば、こうして釘は、小刻みに掌底を使って押し込んでしまえばいいのだ。なんとも便利な体である。日曜大工は彼に任せてしまった方が、早く済んでいいだろう。
そして今度は、リュックから大きなハケと缶詰のようなものをいくつか取り出し、その缶詰を彼はこれまた素手で器用にあけた。
缶の中身は、色とりどりのペンキだった。
「ふんふんふーん♪」
口笛から鼻歌へと移行する。上機嫌な彼は、そのままそのペンキとハケを使って、作ってしまったのである。
元の通り、いや、元より断然小奇麗に見やすくなった、道案内の看板を。
「ふっふ……」
しかし彼は、完成した看板を掲げて不敵な笑みを漏らした。もし近くに誰かが居たとしたら、問答無用で通報されていただろう。それはおよそ、良いことをした人間がこぼすような、健全な笑みではなかったのだ。
理由は簡単であった。彼は看板を、完全な元通りにはしなかったのである。ある場所の記述を、改ざんしていたのだ。
この街道の名は逃亡街道6号線と言って、『タソ族大逃亡線』上に無数に存在する街道の一つである。世界のどこよりも綺麗に整備されたこの街道は、交易が盛んで人の往来が激しく、活気がある。おかげで安全に旅ができ、なおかつ辿っているだけでタソ族達が残した遺跡に触れることができるとあって、バックパッカーなどの旅人達に人気なのであった。
こんなに素晴らしいものであるにも関わらず、しかし彼は、ある点が気に食わなかったのだ。
「なぁにが、“逃亡”街道だ」
なんと彼は、長年この辺りの住民や、旅人達に慣れ親しまれていた逃亡街道というその名前自体を改ざんしてしまったのである。
『タソ族栄光街道』
彼は、新しい看板にそう記した。
「……俺は逃げん」
ただ明朗快活に見える彼だったが、そんな彼にも、何か色々な想いや、背負っているものがあるようである。
彼はどこまでも続いていくような、街道の先を見据えた。
(まずはここから。俺が塗り替える)
ミシ、と軋む音がするほど、彼は両拳を握りこんだ。
そうして遠い地平線を見やる彼には、並々ならぬ決意が感じられた。
「さて、次いくか」
リュックを背負い、そのまま彼は歩き出した。いつ終わるとも知れない、長い長い旅の始まりであった。
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