兵器千戦外伝
くまたそ千戦
タソ族という弱小種族があった。知能は高いものの、肉体的にはまさに弱小中の弱小。歴史を紐解くと、他種族から力による侵略を受けていた時期が多い。その知能をもってして、彼らはかろうじて種を保っている状態であった。
このままでは近いうちに絶滅してしまうかもしれない。そう思ったタソ族の先祖たちは、ある方法で窮地を打開しようとした。知能が高く、文化レベルも高いタソ族においては、およそ人道的とは言えない方法であったが、仕方なかった。それほど、事態は逼迫していたのである。
爪に火を灯すようにして、途方もない時間を彼らは過ごした。戦争が起こりそうになった時には、ことが大きくなる前に逃げて、逃げて、逃げまくった。全ては次代の為。これを合言葉に、彼らは何世代にも渡って世界を逃げまわったのである。
彼らの通った道、『タソ族大逃亡線』上には、今も歴史的価値のある文化財が多く残っている。彼らが誇れたのは、その器用な手足と芸術レベル。100人の歴史学者がいたら、その全員がそうだと答える。間違っても武力などとは答えない。はず、であった……
そう。もうそれは、動き出していたのである。彼らの努力の結晶。異端児が、一族の期待を背負って、歩き出していたのだった。
これは、一人の男の千の戦の物語である。彼の拳に付く傷の、一つ一つを、これから辿っていく事としよう。
緑萌ゆる逃亡街道、旅をするにはうってつけ。頬を撫でる優しい風に、彼は頬を綻ばせた。「やー、いい風だわな」言いながらニッ、と口角を、たぶん上げている。完全なヒトとは少し違う彼らだから、見慣れない人間が彼らの口元から表情を読むのは、少しコツがいるかもしれない。
「いきなり旅に出なきゃならんなんて不安しか無かったけどよぉ……まぁ、いいもんなのかもな。実際」
今までずっと里に篭りきりの生活だったからか、彼の目には、何もかもが新鮮に見えた。
「おいすー」
だからなのか、世界の大多数を占めているヒトとすれ違うだけでも、彼は挨拶を欠かそうとはしなかった。子供が初めて遠出する時のような、何となくテンションが上がっている状態である。
しかし、世間の風は意外にも厳しかったようである。にこやかに挨拶をしても怪訝な目を向けられるだけで、この街道を歩いている途中、一度も彼に挨拶を返す者はいなかったのだ。
「おい誰か挨拶返してくれよ……」
一人ごちるが、同時に彼は、仕方ないのかとも思い始めていた。
(やっぱ、亜人のせいか)
この世界ではもはや、亜人は圧倒的少数派なのだった。そこに存在するというだけで、好奇の目を向けられるくらいに。特に彼の部族はさらにその中でも珍しいものだったから、知らない人には本当に怪しげな被り物をしたやつにしか見えないし、仕方ないのかもしれなかった。
「ま、今に見てろや」
もう何度目か分からない挨拶を無視された時、彼の決意はより強固なものとなった。
『タソ族ここにあり』
虐げられてきた自らの種族の汚名を晴らす。それがまず一つ、彼のこの旅の目的なのであった。
くまたそ千戦
タソ族という弱小種族があった。知能は高いものの、肉体的にはまさに弱小中の弱小。歴史を紐解くと、他種族から力による侵略を受けていた時期が多い。その知能をもってして、彼らはかろうじて種を保っている状態であった。
このままでは近いうちに絶滅してしまうかもしれない。そう思ったタソ族の先祖たちは、ある方法で窮地を打開しようとした。知能が高く、文化レベルも高いタソ族においては、およそ人道的とは言えない方法であったが、仕方なかった。それほど、事態は逼迫していたのである。
爪に火を灯すようにして、途方もない時間を彼らは過ごした。戦争が起こりそうになった時には、ことが大きくなる前に逃げて、逃げて、逃げまくった。全ては次代の為。これを合言葉に、彼らは何世代にも渡って世界を逃げまわったのである。
彼らの通った道、『タソ族大逃亡線』上には、今も歴史的価値のある文化財が多く残っている。彼らが誇れたのは、その器用な手足と芸術レベル。100人の歴史学者がいたら、その全員がそうだと答える。間違っても武力などとは答えない。はず、であった……
そう。もうそれは、動き出していたのである。彼らの努力の結晶。異端児が、一族の期待を背負って、歩き出していたのだった。
これは、一人の男の千の戦の物語である。彼の拳に付く傷の、一つ一つを、これから辿っていく事としよう。
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緑萌ゆる逃亡街道、旅をするにはうってつけ。頬を撫でる優しい風に、彼は頬を綻ばせた。「やー、いい風だわな」言いながらニッ、と口角を、たぶん上げている。完全なヒトとは少し違う彼らだから、見慣れない人間が彼らの口元から表情を読むのは、少しコツがいるかもしれない。
「いきなり旅に出なきゃならんなんて不安しか無かったけどよぉ……まぁ、いいもんなのかもな。実際」
今までずっと里に篭りきりの生活だったからか、彼の目には、何もかもが新鮮に見えた。
「おいすー」
だからなのか、世界の大多数を占めているヒトとすれ違うだけでも、彼は挨拶を欠かそうとはしなかった。子供が初めて遠出する時のような、何となくテンションが上がっている状態である。
しかし、世間の風は意外にも厳しかったようである。にこやかに挨拶をしても怪訝な目を向けられるだけで、この街道を歩いている途中、一度も彼に挨拶を返す者はいなかったのだ。
「おい誰か挨拶返してくれよ……」
一人ごちるが、同時に彼は、仕方ないのかとも思い始めていた。
(やっぱ、亜人のせいか)
この世界ではもはや、亜人は圧倒的少数派なのだった。そこに存在するというだけで、好奇の目を向けられるくらいに。特に彼の部族はさらにその中でも珍しいものだったから、知らない人には本当に怪しげな被り物をしたやつにしか見えないし、仕方ないのかもしれなかった。
「ま、今に見てろや」
もう何度目か分からない挨拶を無視された時、彼の決意はより強固なものとなった。
『タソ族ここにあり』
虐げられてきた自らの種族の汚名を晴らす。それがまず一つ、彼のこの旅の目的なのであった。
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