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5000文字の駄文がお前らを襲う。暇人以外は帰ったほうがいい。




拍手[3回]


『more thousand words』


 荒ぶる波を鎮めなければならない。
 それが自分の使命、そのはずなのに、自分の中にもそれはなだれ込んできて、心が波立ってしまう。激しくうねるそれが自分の心に打ちつけられる度、分かたれた細かい水滴が水蒸気のように上がる。そしてそれはそのまま霧となって、自分の道を塞いだ。

 気づくと、真っ白な空間が目前に広がっていた。何も見えなくて、全てのものの輪郭がぼやけてしまう虚無の空間だった。ものすごく窮屈な気もするし、広大な空間に置かれているような気もした。
 体にはほとんど力が入らなかった。皆が自分をかばってくれたというのに、ただ横たわっている事しかできない。まぶたが、信じられないくらいに重かった。

 おまけにひどく寒かった。自分は今、雪山でただ一人、死の淵をさまよっている。ふきすさぶ風から身を守ることも出来ずに、為す術もなく倒れ込んでいる。状況は分かっているのに、肝心要の体が動かない。頭から下が無いみたいだった。

 四肢を投げ出すように倒れているはずなのに、すぐそこにあるはずの腕さえも霧で見えない。恐怖が体に浸透してくる。ただ何も見えないという事が、こんなにも怖いものなのかということを、思い知らされる。

 このままでいるわけにはいかなかった。自分達が倒れたら、世界は霧に沈んでしまうかもしれない。今自分を貫いている、身を切るような冷たい恐怖が世界を支配するかもしれないのだ。それだけは、絶対に阻止しなければならない。

 まずは、自分が動けなければ。
 頭が手離してしまった、体全体を制御する手綱のありかを探り始める。手始めに、自分の周りにまとわりついている霧を振り払おうとしてみた。

 確かに自分はそうしようとした。なのにまるで体が動いた感覚はなく、目の前でただ一度、強く息が吐かれただけ。僅かにあったのは、左腕の感覚だけだった。
 そしてその左腕も、いつもより重い。地面に縫いつけられているみたいに動きを制限され、自由に動かせるとはとても言えない状態だ。

 左手に、力を込めた。だけどとにかく、動きはするのだ。手の平を握ったり開いたりして状態を確かめてみると、這うくらいは出来そうな力があったから、ならばほふくでもなんでもしてやろうと、腕を動かしてみる。

 動く。なんとか動く。抗う力が、まだ残っている。そう自分に言い聞かせて、抵抗を試みた。

 腕を伸ばす。それから、思い切り手を握る。そして歯を食いしばって、その握りしめた手の所まで自分の顔を持っていく。
 腕を伸ばす。それから、思い切り手を握る。そして歯を食いしばって、その握りしめた手の所まで自分の顔を持っていく……

 それを繰り返す。ただ愚直に、何度も何度も繰り返した。

 でもそれも、長くは続かなかった。続くわけはなかった。どこに向かっているのかさえ分からないのだから、当たり前だ。むやみやたらに進んでも、そこにゴールがあるとは限らない。その事実が、自分の心を折りに来る。

 息が上がった。地面に擦りつけ続けた左手から、血が滲み出した。腹が地面にへばりついているせいで、大きく息を吸い込む事も出来ない。意識が遠のいていく……

 そして白くなっていく意識の中、気づいてしまった。別に何も変わらないのだった。目を開いていても、先の見通せない白い空間が広がっているだけ。目を閉じれば、暗い闇が自分を包むだけ。白か黒か、それだけの違いなのだから。

 意識が限界まで薄まる。いよいよ、最期の時が近づいてきたようだった。この体の芯まで到達した寒さと疲れに身を委ねてしまえば、すべてが終わる。この途方もない寂しさからも、救われるはずだ。

 目を閉じて、左腕を引き寄せる。自分の腕を枕に死んでいくのも悪くないかもしれない。そう思っての、何となくの行動だった。頭を無理やり起こしてそこに顔をのせると、なぜか少し心が安らいだ。

 温かかった。ほふくのせいで袖がめくれ上がったそこには、冷たい肌しか無いはずだった。なのに実際には、ひたいと、目に、仄かな温かみがあった。



なぜ?



 思わず、その最後の好奇心から目を開けようとした。本当に、ただの純粋な好奇心だった。

 重いまぶたを無理やり開けると、そこには、色があった。白と黒しかないはずの空間に、色があったのだ。体が突然戻った感覚にびっくりして、反射的にそこから身を引く。

 まだ霞がかかったような頭の中枢に、これはなんだと問う。この左手を楽しく彩っているものは、一体何だ。見るだけで心が癒されて、楽しい気分になるこれは、一体何なのだと問う。
 ふと何気なく指先に視線を移すと、人差し指に絆創膏が巻かれていることにも気づく。何の変哲もないはずのそれを見た瞬間、今度はなぜか頬がしくりと痛んだ。





…………そうだった。そうだったのだ。
 目の前の恐怖に惑わされて、自分はすっかり大事な事を忘れていた。この頬の痛みは、きっといつまでもだらしなくうなだれてる自分への、戒めだった。


 離してしまった手綱が、だんだんと手元に戻ってくる。色が戻って、今度は右手の感覚が戻る。そのまま左手の、大事な人からもらったリストバンドを、強く握った。

 自分の弱さと向き合う強さを示してくれた人だった。
 女だてらに、「守る」と言ってくれた人だった。
 そんな彼女を、自分は命をかけても守りたいと思った。その想いが、この彼女を象徴するようなカラフルな色使いのリストバンドから、蘇ってくる。どんどんどんどん、湧き水みたいに湧いてくる。

 その大事な時間が戻ると、それをきっかけにして、皆と過ごしたかけがえのない時間が次々と頭の中に浮かんできた。もう少し。もう少しで、すべてを手にすることが出来る。

 この絆創膏もそうなのだった。
 あの暑苦しい、馬鹿みたいな時間を思い出す。馬鹿なことだと分かっていて、あいつも提案したのだと思う。互いに殴って殴られて、これで真の友だち、相棒になったななどとあいつは言い、腫れた頬にしみるような涼し気な風の吹く河川敷で、二人で笑い合った。
 それから今日という日の記念にと、これを渡されたのだった。あの頬の痛みは、今でも容易に思い出せる。

 そもそもこの絆創膏はなぜ貼ったのかも思い出す。稲羽で過ごす、数少ない夜を惜しむように家族で一緒に料理をした時のことだ。ここぞとばかりに凝った料理を作ろうと奮闘していた時、自分は張り切りすぎて指を切ってしまった。半ば押し付けられるように渡された、ポケットに突っ込んだままだったその絆創膏が、その時思わぬ形で役に立ったのだ。

 すべての時間が、手元に戻る。
 もう、大丈夫だった。正体の見えない恐怖はまだ確かにそこにあったが、自分にはもっと確かなものがあったのだということを、思い出した。
 自分が辿ってきた道。楽しい時間も、厳しい苦難の時間もあった。でもいつもその道には、皆の姿があったのだ。


千枝がいた。
陽介がいた。
雪子がいた。
クマがいた。
りせがいた。
完二が。直斗が。菜々子が。堂島おじさんが。町の皆や、一条や長瀬、学校の皆が。お前らが。.


 耳に楽しい皆の声が、聞こえてくる。


 何を怖がることがあったのだろうか。自分には、皆と歩いた道がある。もらった言葉がある。それは何よりも確かに信じられる、自分の芯。『真』ではなかったか。

 そう思った瞬間、皆の声が頭の中に響いた。


『『『立て』』』


 その声に呼応するかのように、完全に体に力が戻る。それどころか、かつてない力が自分の中にあるのが分かった。恐怖と、虚実に惑わされない真の力が、今ここにある。

 立ち上がると、霧が晴れた。これで再び、向き合うことが出来る。



 あいつは、人々の恐怖そのものを体現するその姿で待ち受けていた。
 初めは小さなものだったのかもしれない。でも荒ぶる波は、その周りにあるもの全てを飲み込んで、今自分達の目の前に大波となって立ちはだかっていた。
 そしてまた、『恐怖』を投げかけられる。幾千の恐れにまみれた言葉を向けられる。


一人で歩くのは怖いだろう?
だから、皆同じ方向を向いて歩こう。
嘘でも何でも、皆が信じればそれは本当になるのだから。



 でも今度は、その大波は自分の中には到達しない。自分にはもう見えているのだ。その恐怖は、虚飾されて大きいように見えるだけで、本当はちっぽけなものだという事が。もはやどんな言葉も、自分の行く先を遮ることは出来なかった。

 と、目の前を遮っているものがまだあることに気づき、手を伸ばした。
 クマには悪いが、これはもう必要なかった。こんなメガネが無くても、もう自分は見通せる。皆がいれば、真実を見通せるのだ。

 それを放ると共に、決意した。




 終わりにしよう。自分達の言葉を、選択をあいつにぶつける。
 始めるのだ。なにものにも遮ることの出来ない、自分達で創る、新しい明日を。






・     ・     ・




・     ・













 そして、電車は走りだした。来る時にはなかった、多くの思い出を載せて。


 余りにも鈍行過ぎるこの電車に辟易して来る時は寝てしまったが、今はその遅さが心地いい。ゆっくりと後ろ手に周りを見ながら歩いてみるのも、人生には必要なのかもしれなかった。

 不思議な時間を過ごしたと今でも思う。毎日毎日、門限ぎりぎりまで目一杯遊んだ子供時代のような、濃密な時間だった。1年しかいなかったのに、10年も20年もそこにいたかのように感じる。
 それはきっと、子供の頃のように自分をフルに使って過ごしたからだった。いつまでも忘れないでいようと思う。あそこで自分は、貴重な貴重な時間を過ごしたのだから。

 段々と、少しづつ進んでいったあの場所での日々を想う。その緩やかさは、河川敷から菜々子と共に家に帰る時の歩幅のようであり、あるいは、夕暮れに皆と歩いた商店街の坂のようでもあった。
 かけがえのない毎日が、自分の中に刻まれている。あの町はとっくに、自分の中の原風景になってしまっていた。

 そうやってしばらくの間、黄昏ていた。すると、橋に差し掛かった所で突然車内アナウンスの声が流れた。


『誠に申し訳ございません。先行する列車が、横断する鹿の群れを回避するため一時停止しております。しばらくお待ちください……』


 この上まだ自分にここの景色を眺めさせてくれると言うのだろうか。
 肌でこの場所を感じたい。そう思って、窓を開けた。

 一脈の風も流れない、凪の時間の川辺だった。鳥が飛び立った後の波紋以外、水面には何一つ波が立たない。連なる山や木々が、水面に落ちている。時が止まったような景色。窓枠の中に、絵が描かれているようにも見えた。
 ふと立ち止まると、こんなにも優しい世界が広がっている。それを目に焼き付けながら、気付かせてくれた悠長な鹿達に感謝した。


 それからしばらくして、またアナウンスが入った。
 列車は、おずおずと橋を渡り出した。またもや現れるかもしれない鹿たちに警戒してか、殊更遅く。

 自分の感情を反映させてくれているようなこの速度は有難い。でも、こうして進んでいる限り、いくら鈍行列車であってもいつかは目的地に着いてしまうのだ。すっかりここの空気に慣れてしまったから、また都会の喧騒の中に戻るのは、気が重いと言えば重かった。

 街を歩けば大勢の人がいて、いつも溺れそうなほどの言葉がそこかしこで溢れていた。時間の流れが異常に早く感じられて、今思えば、何かしなければ、何かしなければといつも追い立てられるように過ごしていた気がする。たくさんの言葉があったのに、一人でいるより独りだった。人をそんな気持ちにさせる無慈悲な言葉が、街に無秩序に溢れていた。

 それに気付かずにいた昔と違って、今はそれが少し怖い。でも人がいれば、その分だけそういう言葉が生まれてしまう。それは絶対避けようがない。あんな小さな街でも、一つの恐怖から皆が乱れてしまった。だからこれは、きっともうどうしようもない事なのだと思う。



 列車は、県境の短いトンネルを抜けた。
 また少し遠ざかる距離に、無意識に手を伸ばしていた。


 じゃあどうすれば、そんな言葉から身を守れるだろうか?


 胸ポケットに、答えがあった。
 自分はもう、知っているのだった。




泣いて。
悲しんで。
喜んで。
心配して。
喧嘩して。
仲直りして。
笑い合って。




 大事な人達と一緒に、そうするだけでいい。この写真のように寄り添って。
 追い立てられてはいけない。大事なのは、目の前にある今。
 街に千の冷たい言葉があるのなら、皆とそれ以上の言葉を紡げばいい。直に触れ合った末に生まれる、そういう体温のある言葉を紡いでいけばいい。

 それだけでいい。皆となら、きっとこれからもそれが出来る。
 ここを離れても、する事は同じだ。自分のすべてを使って生きていく。そうすれば自然と言葉は溜まっていき、自分の芯を形作るのだ。

 誰かと笑い合い、時折皆を想う。誰かと喧嘩して、時折皆を想う。ここに帰ってこれたら、そうして目の前の誰かと過ごして積み重なった言葉を、皆にぶつけよう。その時はきっとまた、あそこで過ごした時間が戻ってくる。皆との時間が、再び動き出すのだ。



だから、何も心配することはない。

.だから今日も、俺はお前らに言うんだ。
.「おい、だれかコメしてくれよ」
.紡いだ言葉が、力に変わるように    

消えない絆が、もう確かに刻まれているのだから    




俺達のペルソナ4 




 
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無題
(・ω・)

(;ω;) ブワァァァァ

(`;ω;´)ゝ 乙!
のすけ 2012/03/29(Thu) 編集
無題
ピンク文字ふいた
2012/03/30(Fri) 編集
無題
>のすけ
ありがとう……ありがとう……書くのに2週間以上かかったのにこのクオリティなのが泣けるぜ。

>ピンク文字
素晴らしい……真実を見通す目、貴様にもついていたようだ。
くまたそ 2012/04/18(Wed) 編集
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