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私はなんという残酷な事をしてしまったのだろうか……


拍手[3回]


夕刻。雨の降りしきる、寒い晩秋の日であった。
インターホンが部屋に鳴り響き、我が愛犬が吠え出す。誰かが来るたびにこれなものだから、結構大変だ。番犬気取りなのだろうが、それならどっしりと構えて欲しいものだ。小心者丸出しではないか。

そんな愛犬の悪癖に少々げんなりしながらも、私はインターホンに出る。
「荷物でーす」
どうやら、宅急便である。そのかなり低い声に「は~い」と返事して、私は玄関に出た。

「ここやで、ここ」

ぽんぽんと、受取確認欄を指差す彼。 西 濃 は 神 。
本当は、クロネコさんだった。豪雨の中配達しているせいで、荷物もちょっと濡れてしまっている。私は軽いねぎらいの言葉をかけ、判を押して荷物を受け取った。

部屋に戻り、少し滲んだ配達票を確認する。
「お?」
そこには、『任天堂』の文字。こ、これはまさか!!!!!!!!!!!!!!!!

そう。奴が帰ってきたのだ。真っ赤な暴れん坊。地元で最強だった、彼だ。
私は逸る気持ちを抑え、箱を開封した。箱は粉々になった。

内容物は何点かあった。
まず、保護シートが目についた。おそらく修理の際に剥がしたのだろう。きっとまたこれを貼ってくれということなのだ。
次に、こちらから送った保証書や、コノザマの納品書などの書類。それから折られてよく見えないが、たぶん修理の内訳書も入っていた。
そして、厳重にくるまれて帰ってきた、彼だ。赤いボディが緩衝材に包まれていてもはっきりと分かる。本当に、帰ってきたんだ。

私は涙が出そうになるのをぐっとこらえ、内容物をよく確認することにした。不備があってはまずいのだ。また任天堂のお世話になってしまうかもしれない。よくよく、確認した。

「…………ふう」

だがしかし、どうやら不備はないらしかった。私は一息ついて、コーヒーでも淹れようと、最近買ったコーヒーメーカーのスイッチを入れた。すぐにごぽぽぽ、という音が部屋を支配する。

ごぽぽぽぽ……
くくくく……
ごぽぽぽぽぽぽ……
くくくくく……

はじめは、気のせいだと思っていた。しかし、メーカーの運転が止まった時、それは確かな違和感となって顕れた。

くくくくく……
くくくくくく……

おかしい。どう考えてもおかしい。耳を澄ますと、いや、澄まさなくとも聞こえる。低くて、少し自分に酔ったかのような笑い声が聞こえる。
私は、出所を探した。どう考えても、こんなおかしな声を出すようなものは、自分の部屋にはなかったはずなのだ。
PC…………じゃない。アイポ…………はイヤホンを指していないし、音を出せる状態ではない。およそ音を出すような機器を片っ端から調べる。それでも、音の出所は見つからない。

あとは、さっきまで無かったもの。彼くらいしか…………と思って手にとって、驚愕した。

「くくくく……」
「え!?」

はっきりと、聞こえた。まさに漫画の吹き出しをつけるならここ!と言わんばかりにはっきりと彼から聞こえた。

「くくく……おめでたいなくまたそ……」
( ^ω^)「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

彼が、喋った。私は驚いて、思わず一歩下がってしまう。
おかしい。彼はこんな口調ではなかったはず。こんな薄ら寒いナルシストのような笑い方はしなかったはず……
私は、かました。

「貴様だれだ!!!閃空剛衝波!!!!!!」

彼を包んでいる緩衝材に向かって、私は技を繰り出した。その一撃で、ぷちぷち緩衝材は跡形もなく砕け散った。
だが、中の彼には傷一つつけてはいない。紳士なのだ。私は。

「くくく……見事だくまたそ」
「御託はいい!!誰なんだお前は!」

私が大声でそう言っても、彼は意に介さず、さも冷静に佇むだけである。赤いボディに、部屋の照明が反射する。

「くくく……修理内訳書を見てみるがいい」

何だというのだ、一体。彼は修理で人格まで操作されてしまったということだろうか。
私は、言われるがままに内訳書に目を通した。

『ご依頼の件、確認しますた。保証を適用し、本体交換させて頂きました』

本体、交換……………………?

「くくく…………理解したか……?」

そんな、まさか……
私は、彼をひっくり返し、シリアルナンバーを確認した。

(;^ω^)「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

違う。修理前とはナンバーが違う。つまり、これの意味するところは……

「私は、彼ではない。彼はもう、いない……くくく…………」

私は、膝から崩れ落ちた。フローリングにもろに膝を打ち付けるが、その痛みが脳まで届かない。私の頭の中を、悲しみが支配していた。

「そんな……そんな……私はいい京都観光が出来ると思って彼を……」

送り出したのに……
良かれと思って、送り出したのに……
指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。目の奥が……熱いんだ……

「くくく……涙……?そんなはずはない。そんなものが出るわけがない。なぜならお前は……」

消費者だ……
彼の言葉が頭の中にガンガン響く。しばらく私は、orzの形で絶望に打ちひしがれた。
可能性が無かったわけではない。無かったわけではないが、これしきの修理以来で、まさか本体交換などという神対応をするはずがない。そう思ってしまったのが、私のミスだ。任天堂の神対応を嫌というほどネットで見てきたのに、それを忘れていたのだ。
私は、涙を拭った。

「今彼は……?」
「…………分解され、また新しい3DSをリユニオンするための部品となった」
「そう……か……」

それならば、よい。廃棄さえされなければ、またリユニオン出来るのだ。新しい消費者のもと、きっと彼も楽しくやれているだろう。

「すまない。それならいいんだ」
「くくく……そうか」
「改めて、よろしく頼む」
「くくくく……ああ、大事に使ってくれたまえ」

本当のところは分からない。廃棄かリユニオンかなんて、ただの彼のような末端の携帯機には分かるはずもないのだ。
ただ、彼のついた優しい嘘が、これからの3DS生活に一条の光を与えてくれた。今は、それでいい。

それで、いい。



『我が3DSは京都旅行の夢を見れたのか』 END
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無題
かっこよすぎわろた…
のすけ 2011/11/19(Sat) 編集
無題
これ書籍化しよう
2011/11/19(Sat) 編集
無題
>のすk
なんか最後こんな感じにするつもりなかったのにこんなんになっちったwギャグだったのにwww

>書籍化
われは感動している。
このような文章で書籍化しようといってくれる人がいる。それだけで、わいは。それだけで、わいは……
くまたそ 2011/11/24(Thu) 編集
無題
じゃあ次は零式だな
2011/11/26(Sat) 編集
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